(承前)私は正直「原作無しのオリジナルミュージカル」に強くこだわる人たちの心情がよくわからない。『WICKED』も『Hamilton』も『HADESTOWN』も私の中では「実質オリジナルミュージカルってことでええやん」なんだけど、彼らに言わせれば「それでもまだ原作がある!」って感じなんですよね。
続)たぶん『アナスタシア』『アナと雪の女王』『トッツィー』あるいは『DEATH NOTE』みたいな「みんなが漫画や映画などで知っている(ちょっと古い)話をそのまま舞台化する」ものの、あの安易な安牌感に対する抵抗なんだろうけど。しかし『ハミルトン』でもダメなの……? って思っちゃうけどね。
続)「原作つけたくない、誰もが初めて観る話をミュージカルにしたものが観たい」って条件になると、実在の人物が題材の『モーツァルト!』も、そこから脚色した漫画原作の『マドモアゼルモーツァルト』もダメになる。や、わたしJRBの書き下ろしならば『マディソン郡の橋』でさえ大喜びですけど……。
続)国内なら宝塚歌劇だって私にしてみれば「めちゃくちゃオリジナル作品が多く量産体制も整っている」扱いだけど、多くが歴史文芸物だから、この「真のオリジナル」にこだわる人たちにとってはノーカンなんでしょうかね。いや、相当独特にオリジナリティあるからもうオリジナルでいいと思うんだけど。
続)でもやっぱり「有名原作を翻案したのではない、誰かの伝記でもない、まっさらなオリジナル脚本こそが、純度100%のミュージカルである」と考える人も、いるのであろう。『RENT』『Last 5 Years』『Dear Evan Hansen』とかかな。嫌いじゃないけど。あっ『RENT』は『ラボエーム』だからアウト……?
続)しかし『RENT』系の作家性強いオリジナル作品も結局は「舞台原作→映画化」でメジャーになってくわけで、正直、一観客としては「映画原作→舞台化」の逆順とそこまで違うと思えないんですよ。むしろ「原作付きなのに」映像以上に制約が多い舞台で実験的な演出を試みている作品を、高く評価したい。
続)何しろ私は『キングコング』を絶賛した女……や、みんなも『ウォーホース』は好きだろ、同じだよ。たぶん私は「あの話をこんな手を使って舞台化したのか、演出あっぱれだな!」って驚きへの期待値が高く、「でも脚本がミュージカルのためだけに創られたわけじゃない」って評価軸は重視しないかも。
続)まぁアニメ原作とかは私も「安牌〜」つって観に行きますけどね。あとジュークボックス伝記ミュージカルとかも「酷評しようがねえ〜」つって観る。「あの話をこんな舞台に!」が味わいやすいのは『WICKED』『HADESTOWN』『SIX』みたいな「二次創作系」だから、そういうのは優先して観に行きますね。
つい先日「ホリプロあたりが『キングコング』のスタッフ全員引き抜いて抱え込んで、オーブかブリリアでミュージカル『新世紀エヴァンゲリオン』作ればいいんですよ! あのゴリラ動かせる人たち使徒くらい楽勝でしょ!」って話してました。日本の大劇場を有効活用してほしい。
続)「百歩譲って『シン・ゴジラ』でもいいけど、東宝……東宝はやらなさそう……そしてあの台詞量を全部ミュージカルにするにはリンマニュエルミランダ連れてこないと無理だから、やっぱり鷺巣詩郎&フランクワイルドホーンの共作くらいで東宝&ホリプロ共催『エヴァ』がいいんじゃないでしょうか?」
続)誰宛てのプレゼンなんだよ。なんでワイルドホーンかっていうと、息子に漫画版を渡せば口説き落としてくれそうだからです。
続)……で、この調子で私みたいな演出重視派が「アレもコレもミュージカル化できちゃうのでは!?」と嬉々として原作を挙げると、冒頭述べた「オリジナル至上主義」の人たちが「てか原作無しで作る発想はないの!? おまえらのせいで賞レースが原作付きに『汚染』されてる!」とか言う繰り返しなー。
続)「ミュージカルになるべくしてなった、というか、他の表現ではダメでミュージカルにしかなりようがなかった、何の予備知識も無く観られる、そういう純度100%の脚本で書き下ろされた、オリジナル作品が観たいんだよ!」と言う。『コーラスライン』は入るけど『レミゼラブル』はダメみたいな……?
続)まぁオタク同士で仲良く喧嘩してるだけだからシリアスな話ではないですけど。「僕はファティマ無しのMHを作ってみせる」みたいに「私は原作無しのミュージカルが観たい、作りたい」って人がいる。横で私は「誰か『 私のエッセイ原作で『ファンホーム』みたいにトニー賞獲ってほしい〜」と言う。笑
続)「『 」要らない。
考えてたんですけど、小説とかのほうが事情近いかもしれませんね。『源氏物語りみっくす』『忠臣蔵ノベライズ』みたいな作品ばかりが賞を獲って、「俺はもっと芥川賞の純文学みたいなやつが読みたいんだ!」と訴える派閥があって、でも芥川龍之介も『芋粥』『鼻』とか書いてるじゃんね、みたいな……。
続)私だって「最近めっきり純文学が減って悲しい!」の嘆きはよくわかるよ。ただ、それ本当にミュージカルでやるべきことなのか? とも思いはする。「ミュージカルでやる必然性あるか?」と考えたとき「そりゃレミゼのほうが必然性あるのでは、原作読破できる人少ないし……」みたいに思ってしまう。
続)そういえば私、『The Woodsman』を観に行って大変感激して連れに感想聞いたら呆然としてて、なんと『オズの魔法使』を1ミリも知らない人を連れてきちゃった、という出来事があったな。あのときに「私がミュージカル好きな気持ちって二次創作同人誌が好きな気持ちに近いのかも」と思ったものだ。
続)『The Woodsman』完全に「最大手壁サークルがウィキッドさんなことに異論はないけど敢えての別世界線パロで新刊出してますんで!」だったもんな。かたやオリジナル至上主義の人たちはきっと、ミュージカルにコミティア(創作系同人誌即売会)を求めているのだろうよ。それはわかる。それもわかる。
や、たぶんもっと単純に、「私小説的な作風で鮮烈デビューを飾る若手スーパークリエイター」みたいなものの到来を待ちわびてるんじゃないですかね。第二のジョナサンラーソンをいち早く見つけたほうが勝ち、みたいなゲームだと考えると、確かにオリジナル界隈を張り込んで探したほうがいいのだろうし。
続)「いかにもヒットしそうな原作を金で買っただけの企画、クリエイターが好きに選べない中での新作量産は、観ててつまらない」は本当よくわかるんですよね……と喧嘩相手を庇い始める……でも私はシステマチックに力技で「何でもそこそこの舞台に仕上げちゃうよ〜」とやる派閥も嫌いじゃないよ……。
ですね。古い映画の舞台化で中高年客層を狙う手法、および賞レースがそればかりになる傾向に「飽きた」と言う気持ちはわかるんですけど、それと「物語創作の手法としてそんなにそれほどオリジナル脚本ばかりが絶対的に偉いのか?」という議論とは別だよなー、と思います。
続)「いきなりオリジナルはマジハードルが高いから、翻案からいくのが吉」、二次創作を楽しく読んできた身としてもよくわかる。「二次創作は物語創作における一番大変な過程をスッ飛ばしてるから誰でもできちゃう」はその通りだけど、「だから一次創作こそが偉いんだ」とは必ずしもイコールではない。
続)「つまらない一次創作より面白い二次創作のほうが面白い」ということもあって(プロ漫画家と同伴したコミケ会場で言ったら叱られるかもしれないが)ミュージカルを観てると実感することがある。だから原作付き翻案やリバイバルや輸入物日本版にも期待かけて観に行く。ガッカリすることもあるけど。
続)どっちが正解でどっちが不正解というのはないけど、少なくとも私がなんでこんなにミュージカル楽しいと思ってるかというのは、そうした動機に因るところが大きいんですよね。オマージュ、パロディ、マッシュアップや二次創作が好きな気持ちと結びつきが強い。映画好きにもそういう派閥いるよね。

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29 Jul
だからさーーー、日本のミュージカル作品もさーーー、公演宣伝のためにこういうPVを作ろうよーーー、観た感じそんなに制作予算変わらんでしょ、でも、めっちゃかわいいやんけ!!
続)何に遠慮してるのかびっくりするほど小さな音量でオリジナルキャスト音源流しながら謎エフェクトで出演者の顔写真くるくるフリップして申し訳程度に低解像度の初演映像が5秒だけ映る、みたいなやつ飽きたよーーー。(特定の人物団体等への批判ではございません)(だってどこもそうなんだもん!)
続)(我ながら二言目が余計だよね)(毎晩毎晩同じ要望ばかり十年間も!)
Read 25 tweets
29 Jul
しかし「LGBTQ+/Non-binary」という言葉の使われ方ひとつとってもじつに多様であるな。フィクション作品を語るときには、「ヘテロノーマティブでない」とか(?)なんか別の表現があったほうが話が早い気がしてきた。もちろん私も1990年代には全然そんなふうには思わなかったが、今は2020年代なので。
続)たとえば、作品が世界全土のクィアな読者から圧倒的な支持を受けているけど作者は異性愛者、というような事例は(日本製BLなどを中心に)少なくないだろうし、ゲイコミックとBLの違いも、作者側に着目すれば線引きは明確だけど、「読み手」側のことは作り手には制御できなかったりもするだろうし。
続)まぁそんなこと言ったら「少年漫画/少女漫画」だって形骸化したジャンル名なんだから変えろよってことになってしまうのだけど、こちらは「Shonen/Shojo」でそのまま輸出されていったし、掲載媒体由来であることも広く知られているから、そんなに引っかかりはない。
Read 19 tweets
29 Jul
全部繋がってるね。
<『片袖の魚』という30分くらいの短編映画です(略)ジェイミーのことをもっと深く知る手がかりとして観に行ったんだけど(略)当事者だからこそ伝えられるものがそこにあって。自分の今までの価値観ががらりと変わるような衝撃に打ちのめされました。>
lp.p.pia.jp/shared/cnt-s/c…
続)日本版『ジェイミー』は主人公以外のドラァグクイーンたちもドラァグ経験の無い男性俳優たちが監修付きで「演じて」いるのだが、その表現がどうなるかは注目している。ちなみにジェイミーの自認は「ときどき女の子になりたくなる男の子」で、プロム会場は「ときどき」に相当するのか、が話のキモ。
続)こういう話、一昔前なら学校側は無理解な悪者と描かれがちなんだけど、女装だからダメというのではなく「プロムには男女で厳格な服装規定がありジェイミーは本校の男子生徒である」(放課後なら何着てショーに出ても不問)という理屈で、彼に「女の子になりたい」とは何なのか? を問うてくる。
Read 11 tweets
29 Jul
「退屈は犯罪です」って何かと思ったらNetflixジャパンのコピーなのか。否定的な意見が圧倒的多数かと思いきや、肯定的な意見もある……と、書けば書くほどトレンドに上がって「話題沸騰」扱いされるのも癪ですね。なお、私は言うまでもなく『退屈は素敵』派です。
amazon.co.jp/dp/4783731950
続)「悪いことだイケナイコトだって、言われれば言われるほど、必見と言われたまま積みっぱなしの映像作品消化なんかほっぽり出して、したくなるよね、退屈……////」くらいの感じで受け止めたのですが。ザッと見て、犯罪はよくないと考える若者は肯定的、監視社会を憂う大人は否定的、って感じか。
続)「情動までシステムに管理されるの全体主義的で怖い」と怯える大人とは別に、「刺さる〜、そうだよね、私も退屈なんかしてちゃダメだ、もっと面白いこと見つけたい!」という推定お若い方のコメントも見かけ、その行き届いた「一つでもバツがついてはならない」観念、ヘルジャパンよのと思うなど。
Read 5 tweets
29 Jul
なにこれー、素晴らしい媒体露出ー!! 最高かー!! かわいいの二乗だよー!! うまくまとまってるけど、これぜったいこの数十倍は話してるんじゃないか、と思ったら当然の如く前後編だった。真彩希帆ありきで、この企画タイトルで、連載第一回に石川禅。わかりみしかない。ガチのやつですね。
続)どうです、我が推しのこの圧倒的親近感。推しのために梅芸遠征すると推しが宿で自分と同じことしている。いい沼ですよ。どうぞ。(さすがに自宅にはスカステ引いてないんだな……)
<僕はだいたい大阪公演に行くと宿泊するホテルで見られる宝塚スカイステージ(宝塚専門チャンネル)を見ていて。>
続)<(ミックスボイスの)仕組みが分かってからは「この人の声は深みがあるな~」って感じる歌い手さんの声がすごく好きになったんですよ。/だから、派手に歌っているよりも柔らかく深く伝わってくる声のほうが好きです。><それって禅さんのお声じゃないですか!>ほんまそれ。後編が待ち遠しい!
Read 13 tweets
28 Jul
(承前)『ハミルトン』に日本語字幕がまだ付いてないの衝撃なんですけど、みんな映画版『インザハイツ』観た後に勢いで観れば英語字幕でも十分いけると思うよ。少なくとも生の舞台で観るよりはいける。基本的に登場人物みんなイケコばりの自己紹介ソング歌うから誰が誰かわからないってことはないし。
続)私は人に薦めるときいつも「アンジェリカー、って歌った子がアンジェリカで、イラーイザー、って歌った子がイライザで、ペギー、って名乗った子がペギーで、アレクザンダーハミルトン! って呼ばれて飛び出るのがハミルトンで、王様っぽいのが王様。大丈夫、レミゼわかればわかる」と言っている。
続)「この私がラップを全部聴き取りながら観られているとでも思ってる……?」「ネタバレすると史実なので主人公は死ぬ、いま何の戦争してるかわからなくなったら一時停止してWikipediaでも読めばすべて答え合わせできる、ヅカの歴史物のほうがよっぽど難しい」「クソデカ感情は言語の壁を越える」。
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