●ワクチン接種者のブレイクスルー感染は抗体価が低い例でリスクが高い
→抗体価は接種後に経時的に減衰するので、ワクチン接種後のピーク値を見れば、その後のリスクはある程度まで評価可能かもしれません。
同時に感染防御は細胞性免疫ではなく主に液性免疫で担われており、防御能は抗体価で評価可能という事も示しているように思います。
接種後に抗体価が経時的に減衰する事は既知ですので、やはり本疾患ではワクチンのbooster接種が必要という展開になるのでしょう。
重要なポイントは、ブレイクスルー感染例でもCt値は低く例が存在し、やはり感染源になり得ることです。
加えて、ブレイクスルー感染の3分の1が無症状と軽症ですが、一方で19%にLong COVID発症が疑われています。1例は発症6週経過後も復職できていません。
Covid-19 Breakthrough Infections in Vaccinated Health Care Workers
nejm.org/doi/full/10.10…
-----
・SARS-CoV-2に対するファイザーワクチンの高い有効性にも拘わらず、医療従事者等におけるブレイクスルー感染が稀ではあるが起こっている。ブレイクスルー感染の臨床的特徴と他者への感染性に関するデータが求められている。
(方法)
・イスラエル最大の医療センターであるSheba Medical Centerでの前向きコホート研究。
・患者を特定するために、毎日の健康アンケート、ホットライン、曝露イベントの広範な疫学的調査や、感染患者の接触者追跡を行った。RT-PCR検査は症状が出現した職員や、感染者に接触した職員は症状に関係なく実施した。迅速抗原検査は初期のスクリーニングとして、RT-PCR検査と組み合わせて実施した。
・変異株特定についてはspike proteinの変異(E484K、N501Y、HV69/70)を検出した。その後、COVIDSeqライブラリ作成キットを用いて、全ゲノムシークエンスを行った。
・抗体価の評価は、S1 IgG、SARS-CoV-2 pseudovirus中和アッセイ、抗N抗体の3種を用いた。中和抗体とIgG抗体について、診断1週間以内(peri-infection period)とピーク時(2回目のワクチン接種後1か月以内)の2つの時点の抗体価を検討した。
・2021年1月20日、最初のスタッフがワクチンの2回接種を受けてから11日後より研究が開始された。データは4月28日までの14週間にわたって収集された。この時期、イスラエルでは3回目かつ最大規模のCOVID-19パンデミックが起こっており、2021年1月14日にピークに達し、1日平均8424件の症例が報告された。
・ブレイクスルー感染は、6日以内に明らかな曝露歴や症状発症がない場合には、ワクチン接種2回目から11日以上経過後にRT-PCR法でSARS-CoV-2が検出された場合と定義した。
・ブレイクスルー感染についてcase-control analysisを行った。ブレイクスルー感染例でperi-infection periodに抗体価が測定されていた患者の1人につき、4-5人の非感染対照者をマッチ(性別、年齢、ワクチン接種2回目から血清検査までの間隔、免疫抑制状態など)し、
generalized estimating equationsを用いて、患者と対照者の抗体価(GMT)と両群の抗体価の比を推定した。血清学的検査データが得られなかったブレイクスルー感染例は解析から除外した。
・中和抗体価および感染性の指標となるN geneのRT-PCRのCt値の関連についても評価を行った。
(結果)
・ワクチン接種完了者でRT-PCRのデータが入手可能な1497人の医療従事者から、39人のブレイクスルー感染患者が特定された。患者の平均年齢は42歳だった。2回目のワクチン接種からの期間の中央値は39日(range11 -102日)だった。免疫抑制状態にあった患者は1人(3%)のみだった。
・患者のうち21例(57%)は家庭内での曝露による感染だった。11例(30%)は職場の同僚や患者が感染源と考えられた。
・ブレイクスルー関連例の33%は無症状だった。67%は軽度の症状があった。入院例はなかったが、19%の患者で症状が6週以上持続した(Long COVID)。持続する嗅覚障害、持続的咳、倦怠感、脱力感、呼吸困難、筋肉痛などが見られた。
9人(23%)は10日間の隔離期間を超えて仕事を休み、このうち4人は2週間以内に仕事に復帰した。1人は6週間以上たっても復職できていなかった。
・peri-infection periodにおける患者の中和抗体価が得られた22例では、マッチさせた非感染対照例よりも有意に低かった(case- control ratio 0.361, 0.165-0.787)。
・peri-infection periodにおける高い中和抗体価は、低い感染性と関連していた(Ct値が高かった)。
・74%の患者ではCt値30以下の高ウイルス量であり、このうち迅速抗原検査陽性は59%(17人)に過ぎなかった。二次感染例はみられなかった。
・感染後の抗N抗体のデータは感染後8-72日後に22例で得られた。このうち18%(4人)では抗N抗体が陰性だった。4人のうち2人は無症状(Ct値は32, 35)、1人は診断10日後の採血、1人は免疫抑制状態にあった。
(結論)
・ブレイクスルー感染はperi-infection periodにおける中和抗体価と関連していた。
・長期に症状が持続するケースもあったが、ほとんどのブレイクスルー感染は軽症または無症状だった。
---
・ブレイクスルー感染例と対照例の抗体価の違い
ブレイクスルー感染のうち、有症状例は赤丸で示されています。
左上が感染1週間以内の中和抗体価、左下が感染1週間以内のIgG価。
右上がワクチン接種後の中和抗体のピーク値、右下が接種後のIgGのピーク値です。
抗体価が低い症例でブレイクスルー感染のリスクがある事。
そしてそれは、ワクチン接種後のピーク値である程度、予測可能であるように見えます。

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米英の重症者数の増加速度です。
米国は7/7の3801人から27日間で8088人増(+7.9%/day)
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→ICU/人工呼吸器の重症者
米国は11889人で1日で376人増
イタリアは249人で1日で19人増
フランスは1232人で1日で95人増
イギリスは889人で3日で20人増
イタリア36日減→48日増→103日減→7日増
フランス46日減→115日増→83日減→7日増
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1) 感染者報告数
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→779→824→874→933→926→876→806
→784→757→728→704→675→650→649
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-----
1) 感染者報告数
7日平均の推移
→297→299→301(解除)
→303→308→310→320→330→343→351
→358→362→361→373→381→384→390
→392→397→417→427→441→459→468
→476→492→497→523→542→569→586
→601→629→665→684→697→714→727(緊宣)
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