水道管交換の民営化「採算取れない」と業者辞退、大阪市「一から見直し」 : 社会 : ニュース : 読売新聞オンライン yomiuri.co.jp/national/20211…
老朽水道管の交換は工事費用そのものより、工事前の調整が大変なので、まるごと民間に任されると一番苦労するところなのよ。安くはならない。
例えば歌舞伎町みたいなところで水道管を替えようとすると、何曜日の何時から何時まで道路を通行規制するか、水道を止めるか、といったことをヤバい人たちと話し合わなければならないので、いつまで経っても結論なんか出ないし、もしかしたら裏金要求されたりするし。
なので、極端に古い管が集中してるエリアなんてのは「水道局員も担当したくない」場所だったりするので、「スケールメリットあるから民間でまるっと受注してくださいね」なんて言われたら、民間は「何を笑顔でとんでもねえこと言ってんだボケカス」って思うわな。
そうでなくても、大きな管は1日では交換できないので、先に新設管を完成させてそちらへ切り替えてから、古い管の撤去作業をする。ところが大きな管は地下のスペースも大きく取るから、場所探しも大変だし、実際に掘ってみたら既設埋設物が図面と違う場所にあったりする。
普通の住宅地でも、先に路上に仮の水道管をゴロンと置いてそちらにメーターを付け替えて、次に道路を掘って水道管を全部取り替えて、取替が終わったらメーターを付け直してようやく工事終了って感じ。もんのすごく大変。
もともと工事自体は民間がやっているのだし、まとめて民間に発注してスケールメリットを出すこと自体は悪くない。
問題は、水道局が担当していた部分まで含めて委託するなら単純な委託総額は安くはなりようがない、っとこと。
そのぶん水道局員の仕事が減るので、そこまで考えて委託費用を決めないと。
上の方で決めた人たちが、現場をわかってないんだろうなあ。
余談だけど、水道管も進歩していて、

・鋳鉄管や石綿セメント管からダクタイル鋳鉄管へ→力がかかると割れずに曲がる
・押し込んだだけのゴムパッキンから抜け止め金具付きへ、さらに強い耐震伸縮継手へ
・建物へ分岐する給水管を鉛からステンレスへ
・分岐のバルブを真鍮からステンレスへ

などなど
さすがに石綿セメント管や普通鋳鉄感じはほとんど残存してないけど、耐震継手でない管は結構残ってるので、大阪で5割ぐらいあるってのはそういう管だと思う。大地震が起きると継手がすっぽ抜ける可能性がある。
ただ、東京でも完全に駆逐できたわけではなくて、いろいろあって交換できずにいる箇所は何年も対策調整してたりする。
下水やら電気やらいろんな工事と調整して、「もうどうしようもないから全部いっぺんにやらせろ」みたいなことをしたりとか。
ゴムパッキンになる前のやつも、大口径送水管などで残存してる箇所がある。戦前に作ったのはいいが、デカすぎて一時止める事もできず、バイパスも建設できないみたいなのが。そこを修理するために、退職した職員が嘱託で頑張ってくれてたりする。
ゴムパッキンになる前の水道管の接合のしかた

・水道管の差し込み口の隙間に、麻紐を差し込んで、棒と木槌で押し込む
・隙間全体を粘土で塞ぐ
・一番上から溶けた鉛を流し込んで、麻紐を鉛で埋める
・粘土を取り除いて、鉄の棒とハンマーで鉛を叩いて、隙間を完全に埋める

職人芸です。
こういう古い管が漏水してるときは、職人が行って締め直すわけ。
なんとかバイパスが建設できて古い管を廃止できたので、撤去工事をしたところ、巨大なバルブの製造銘板が「帝国海軍〇〇工廠」だったことがあって、本庁からみんなで見学に行ったことがあった。
なんでも当時、こんなサイズのバルブは東京都水道局以外では、戦艦の注水弁ぐらいしかなかったんだと。もしかしたら金剛級建造でヴィッカースから技術導入した、とかかもしれない。
こんな歴史的なもの捨てるわけにいかない、と言って職員で磨き上げてたので、どこかに展示されてるかもしれない。
本郷にある東京都水道局の東京水道歴史館は、江戸時代から現代までの水道のいろんなものを展示していて、ゆっくり見ても2時間ほどで回れる施設なので、週末にちょっと立ち寄ると楽しいですよ。
臨海副都心の東京都水の科学館は小学生以下でも楽しめる体験型施設なので、1日で両方見るのも良いです。
地味な進歩はたくさんあって、水道管の内面を昔はセメントでコーティングしてたけど、今はエポキシ。さらに水道管の外側をビニール袋で巻いているので、最新の水道管は100年は使えるだろうと言われてる。これの比率はまだまだ低いので、今世紀中は水道管の交換はそれなりに多く続く。
少し前のだと、耐震継手のダクタイル鋳鉄管でもポリ袋巻いてなくて、サドル(建物へ取り出すための継手。水道管に巻き付けた様子が馬の鞍ににている)が真鍮製だったりする。というか、ステンレス製のサドルへ切り替えるときの審査したの、僕だし。
真鍮の継手はイオン化傾向の差で腐食しやすいので、もっとイオン化しやすい犠牲電極を付けて防食する。直径も長さも5cmぐらいのマグネシウムの塊。
別件で掘ったときに出てきた犠牲電極が、もう溶けて半分以下になってるとかよくある話で、手持ちの新品の犠牲電極と交換して、ポリ袋で巻いておく。
犠牲電極が付いてないサドルだと、もう真鍮の金具が溶けて薄くなっちゃってるとかもときどきあって。
そういうときは緊急で断水して、サドルごと外して、水道管の穴の上から被せて塞ぐバンドを取り付ける。
土に埋まってると、真鍮は溶けて薄くなっちゃうし、マグネシウムは粘土みたいになっちゃう。
鉄道線路に近い場所だと、迷走電流で水道管が腐食しやすくなるので、直流電圧かけて打ち消したりとか。
水道管の管理も、地味に大変なんすよ。
そういえば、地方ではダクタイル鋳鉄管ではなく、ポリエチレンの水道管を使ってるところも増えてますね。
地震のとき伸縮性があって強いのと、軽いので人力で運べるのがメリット。
あと、接続するときはメス側に仕込んだ電熱線に通電するだけで融着するとで、施工がメッチャ楽。
災害時の応援に行った東京都水道局職員が「あれいいっすよ」と言ったんだけど、「強度が低いので東京で使うと他工事の掘削で壊される」という結論で採用されなかったとか。
下水管やガス管は東京でも塩ビやポリ使ってるのに、ぶーぶー。
ダクタイル鋳鉄管協会に東京都水道局OBが天下りしてるのと関係があるかは、僕は知りませんよ。
あ、小さい漏水の修理とかで道路掘ったときに一番多いのは、真鍮のバルブや継手が腐食して、小孔が開いちゃってるってやつです。
個人的には、水道局は東京都の技術系部局の中でも、一番保守的で頭が固いと思う…建設局道路建設部が一番柔軟かなあ。

• • •

Missing some Tweet in this thread? You can try to force a refresh
 

Keep Current with 大貫剛

大貫剛 Profile picture

Stay in touch and get notified when new unrolls are available from this author!

Read all threads

This Thread may be Removed Anytime!

PDF

Twitter may remove this content at anytime! Save it as PDF for later use!

Try unrolling a thread yourself!

how to unroll video
  1. Follow @ThreadReaderApp to mention us!

  2. From a Twitter thread mention us with a keyword "unroll"
@threadreaderapp unroll

Practice here first or read more on our help page!

More from @ohnuki_tsuyoshi

30 Sep
鉄道を廃止してバス転換すると一番困るのは「地図から消える」ことなのではないかと結構本気で思っている。
その地域に慣れていない人にとって、公共交通利用のハードルがものすごく高くなってしまう。
BRTのように一定の基準を満たした固定的なバス路線は地図に載せる、というようなことをしていくと、バスと鉄道はもっとスムーズに分担できるように思うのだが。
そもそも、現在までに廃止されたり現在経営が困難な赤字鉄道路線がなぜ建設されたのかと言えば「自動車という新しい技術で代替されたから」なので、赤字ローカル線のバス転換は技術的には正しい方向なわけで。
Read 13 tweets
30 Sep
動画より文章の方が理解しやすい人にとって、動画解説はめちゃくちゃ苦痛なのに、社会全体では動画が推されててキツい - Togetter togetter.com/li/1781714 @togetter_jp
僕もそうなんだけど、そういう人は前世代の人とみなされるようになっていくんだろうな…
僕の場合、動画より文章の方がいいのはいくつか明確な理由がある。
まず、理解の速度と動画の速度が一致しないから、待たされたり先に行かれたりする。
記者会見の取材とかだと、先に配布資料にざっと目を通して頭に入れ、説明は情報やニュアンスの補足として資料に追記していく。
もうひとつは、理解がシリアルではなくリレーションなので、文章を順に読んでいくのではなく、面で読んでいく。前後数百字ぐらいを同時に見渡していて、新しい文字を読んだら前の部分を見返したりして、徐々に見てる範囲をあとにずらしていく。
動画の説明はこれができない。
Read 5 tweets
30 Sep
リボ払い、僕も昔は使ってたけど、JCBがルールを変えちゃったのでやめた。

以前は、リボ払いだとポイントは高くつくけど、当月中に引き落とされた分には手数料がかからなかった。なので、リボ払いの月返済額とカードの利用限度額を同じにすれば、手数料なしでポイントを多くもらえた。
JCBもこの抜け道に気付いたのか、ルールを変更した。当月引き落としでも1ヶ月ぶんの手数料がかかることになったのと、リボ払いの返済額を借入残高に応じて自動的に変えるようにした。
借入額が増えれば返済額も増えるので気付きやすい、という意味かもしれないが、借入額が減ると返済額も減るので、毎月同じくらいの金額を使っていても借入額がゼロにならない。毎月必ず繰越が発生して、手数料を余計に取られる。馬鹿馬鹿しいのでリボの契約を解除した。
Read 5 tweets
29 Sep
岸田総理か。まあ無難だなあ。というか、消去法でヤバい順に落としていくと岸田さんになっちゃうよなあ。
多様化してる時代だから、強い人気がある人は、それと同じ理由で多くの人に嫌われて、支持率が他の人より高くても不支持率も高くなってしまう。
「無難に調整できる人」が選ばれざるを得ないとしたら、政治家の役割って何なんだろうな…
で、野党は「一部の人に強く支持される代わりに、より多くの人に嫌われる」路線を捨てないと、政権奪取できっこない。
Read 4 tweets
28 Sep
ふと思った話。

ファーストガンダムの連邦の制服って、基本的に男女共通のスラックスとジャケットだけど、ジャケットの前の合わせを男性は下まで閉じずにスーツ風に、女性は全部閉じてスカート風にしていて、上からベルトを締めることでウェストを絞ってシルエットの差を出してる。絶妙なデザイン。
ノーマルスーツも基本的に男女で同じ。

なんとなくだけど、女性の(というか森雪の)制服だけ妙に密着して身体のラインを出した宇宙戦艦ヤマトに対して、リアルな軍隊を描こうとしたように感じる。
ヤマト2202で、女性の制服は男性のと質感も違ってて、妙に革製品のような艶があってさらに身体ラインを強調してたの、下心丸見えで気持ち悪かったな…
Read 7 tweets
28 Sep
本当に海外旅行したらどうなるのか、真面目に調べ始めてみたのだが、まだ安心して行けると判断できる情報が足りない。継続して調べてみている。
10月末にドバイで開催されるIAC(国際宇宙会議)を取材する、という想定で調べているのだが、飛行機が往復7万円前後、帰還中の宿泊費が6万円前後ぐらいということで、ここまでは想像通り。1週間滞在してこの費用だから、ドバイは安い。
で、問題はコロナ関連。
すぐに思いつくのが帰国後のタクシー。10日間隔離しなければならないので、空港から自宅までは公共交通機関を利用できず、認定されたタクシーを利用する。これだけで3万円。
Read 13 tweets

Did Thread Reader help you today?

Support us! We are indie developers!


This site is made by just two indie developers on a laptop doing marketing, support and development! Read more about the story.

Become a Premium Member ($3/month or $30/year) and get exclusive features!

Become Premium

Too expensive? Make a small donation by buying us coffee ($5) or help with server cost ($10)

Donate via Paypal Become our Patreon

Thank you for your support!

Follow Us on Twitter!

:(