「タダほど高いものはない」もしかしたら、たとえばGoogle検索など、様々なネットサービスもその一つなのかもしれない。
ネットサービスが普及する前、地図は原則、お金を出して買うものだった。それはそうだ。地図を作成するには航空写真の撮影スタッフ、ヘリコプターをチャーターする資金も必要。
航空写真を地図に書き起こす人、それを印刷する人、製本する人、それを本屋さんに並べ、売る人。様々な労働を必要とし、その人達に労賃を払わねばならなかった。逆に言えば、地図は雇用を生んでいた。雇用により、収入を得た人が何かを購入し、経済を動かしてくれていた。
ネットの地図サービスは、それらの雇用を破壊する力がある。カーナビもかなり売れなくなっているようだ。スマホで地図アプリを使えばカーナビと同じようにできるから。カーナビを作る人達の雇用も奪っている可能性がある。
ネットサービスは、多くが自動化可能。今なら人工衛星の写真を人工知能で地図に変換するということも可能なのだろう。何十人、何百人もの手を経て作成されていた地図が、ごくわずかなソフトウェア開発者の雇用しか生まない。それもおそらく、世界中の地図をサクセスしてもなお。
地図サービスをはじめ、ネットサービスは大変便利だから、既存の産業と置き換わっていくのはまあ仕方ない。しかし「仕方ない」と単純に片づけられないのが、雇用の問題。ネットサービスは、多くの人達の生活を支えていた雇用を潰してしまう。しかも新しいサービスはろくに雇用を生まない。
しかしいくら安く済ませているとはいえ、ネット企業も儲けなきゃ生活できない。無料のサービスばかり提供して、どうやって稼ぐのか?それが結局、広告だった。無料サービスで人気を集め、集まるから広告が大きい。広告収入を得るために無料サービスを提供する格好。
しかしこうなると、広告を得られなくなった産業は収入が得られなくなり、苦しむことになる。新聞やテレビ局がそう。たくさんの人を雇用し、情報を有料で提供し、広告で不足分を穴埋めして収入確保していたが、ネット企業がニュースまで無料配信したりして、既存メディアは収入が激減。
結局、無料のネットサービスは、多くの雇用を潰す反面、新たな雇用は大して生まず、ごく少数のエンジニアに高収入を与え、彼らに馬車馬のように働かせ、株主は株価上昇で資産価値爆上がり。途中の過程を忘れたら、多くの雇用を潰した分の収益を少数の人間が独占した格好。
雇用が減れば、仕事を求めてさまようしかない。しかし仕事は少なく、賃金は減るばかり。ネット企業の無料サービスは、多くの人たちから雇用を奪い、少数の人達にお金が集まる構造を作ってしまった。
こうして考えていくと、ネット企業の無料サービスはタンピング(不当に安く売ることでライバル企業を潰してしまう行為)の疑いがある。無料は、消費者側からするとありがたい。カーナビを買わなくてもスマホでナビができる。しかし安く済んだ分、誰かの仕事がなくなっている。
仕事が見つからない人は、生活がままならない。何も買えないから消費の増やしようがない。物が売れなければメーカーは安くしてでも売ろうとする。こうして日本社会では、長らくデフレ経済が進行してしまった。
一案として、無料サービスの有料化を義務づけてはどうか、と思考実験してみる。それを開発するにはどれだけの資金が必要か、試算してみて、有料化でトントンになる利用料をとるよう、ネット企業に義務づける。さらにそれで得られた収入で、新たに雇用することをネット企業に求める。
いまやネットサービスは公共インフラと言ってよいほど浸透している。ならば、有料化しても利用せずにいられないはずだ。その代わり、日本社会の平均年収と同じ給与を支払う形で雇用を義務づける。こうした縛りがないと、少数の優秀なエンジニアしか雇わない恐れがあるから。
ネット検索を1端末あたり100円の有料化を義務づけ、同時に年収1000万円を上限とする雇用を増やすよう、義務づける。1億個の端末なら年間1000億円を超える収入になる。これを原資とするなら、一万人の雇用を生める計算になる。
無料サービスによるダンピング行為を規制し、有料化して収入を得ることを義務づける代わり、それに相応する雇用も求める。こうしたら、新しい産業であるネット企業が大量の雇用を生み、消費を増やし、経済を回すことができるように思う。この思考実験、いかがだろうか。
以上は、「お金は働くことの対価としてしかもらえない」ことを前提にしたばあいの考察。ダンピング行為でたくさんの雇用をつぶされている以上、働きたくても仕事がない。ならば、需要の強い産業に雇用をしてもらわねば、お金を全く手にできない人が生まれかねない。生きていけない。
まとめました。

無料のネットサービスはダンピング行為?|shinshinohara #note note.com/shinshinohara/…

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20 Oct
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