#数楽 個人的な体験談

解析力学→正準量子化
量子力学→古典極限

について、ツイッター上で物理学的な議論になっているように見えますが、私は物理と無関係に数学として面白ければよい(面白くなければいけない)という立場なので、物理学的な議論とは別の話をしたいと思います。続く
#数楽 私はずっと(佐藤幹夫の意味での)τ函数の量子化をどのようにすればよいかについて考えていました。

ソリトン系は無限自由度系なので大変過ぎるので、その相似簡約として出て来るパンルヴェ系(所謂パンルヴェ方程式達の大幅な一般化)の"τ"の量子版の構成について考えることにしました。続く
#数楽 パンルヴェ系はLax形式ではモノドロミー保存系とみなせ、モノドロミー保存系は2次元量子共形場理論の共形ブロックの理論の古典極限とみなせ、私は共形ブロックの数学的理論の専門家だったので、自分にとって情報量の大きそうな部分を攻めるとよいと思いました。続く
#数楽 で、まずは文献調査。

パンルヴェ系やモノドロミー保存系の論文で、ポアソン構造(ポアソンブラケット)の定義が書いてあるものを主に探しました。
#数楽 一般に非可環上の数学の古典極限にはポアソン構造が極限をとる前の非可換性から来るポアソン構造が入り、ポアソン構造はまだ見えていない量子版の構成の大きなヒントになります。

しかし、"τ" の量子版構成に役に立ちそうな古典版における文献が見当たらない。
#数楽 結局、大量の文献に目を通した挙句、自分の目的に役立ちそうな文献が見事に1つも見付けられない。絶望的な気分になったのは言うまでもありません。

結局、あきらめて、長谷川浩司さんが量子dilogを使って構成したパンルヴェ系の離散対称性について、自分の見方で考え直すことにしました。
#数楽 その方向は毎週セミナーで長谷川浩司さんや名古屋創さんに色々教わっていたので、パンルヴェ系の離散対象性として表れるアフィンWeyl群の双有理作用の量子版(長谷川さんが構成した)の別の解釈を発見できました。

アフィンに限らず、任意の量子展開環で同様のものを作れることが分かった。
#数楽 大雑把に言えば、量子展開環の下三角部分を生成するシュヴァレー生成元f_i達による

x ↦ f_i^{λ_i} x f_i^{-λ_i}

という作用が、一般にVerma関係式を満たしていること(量子版幾何結晶!)から、量子版Weyl群双有理作用を作れる。続く
#数楽 その構成はq→1でも有効で、symmetrizable Kac-Moody Lie環の展開環でも同じ構成をできる。

実際にはKac-Moody版を毎週のセミナーで教わったことを参考にして先に作り、本質がVerma関係式だとすぐにわかったので、量子展開環の場合にすぐに一般化できました。続く
#数楽 Weyl群やらKac-Moodyやら量子展開環やらVerma関係式やらの自分にとっては馴染み深い事柄とパンルヴェ系の離散対称性(ベックルント変換、Weyl群双有理作用)が結び付いたので、"τ"の量子版構成のためのヒントが大幅に増えた。

続く
#数楽 なぜならば、その場合には、"τ"達へのWeyl群双有理作用の様子が野海・山田の論文によって完全に分かっていたからです。続く

arxiv.org/abs/math/00120…
Birational Weyl group action arising from a nilpotent Poisson algebra
Masatoshi Noumi, Yasuhiko Yamada
#数楽 野海・山田のτ_i達の量子版の非可換性を適切に定めて、

τ_i → f_j^λ τ_i f_j^{-λ}

の形の作用をうまく使って、野海・山田の古典版のτ_i達へのWeyl群双有理作用の量子版をうまく作れればよい。

これが私が見つけたτ_i達が満たすべき適切な非可換性を見つけるための大ヒントです!
#数楽 野海・山田の論文も含めて、τ_i達に関するポアソンブラケットについて書いてある文献が見つからなかったので、τ_i達の量子版が満たすべき適切な非可換性を決めることが絶望的な状況だったのですが、大ヒントが目の前に現れて来て、急にやる気が出て来ました。続く
#数楽 少し試行錯誤すると、f_i達とτ_i達は可換でなければいけません。

古典版パンルヴェ系でf_i達は所謂従属変数になります。古典版パンルヴェ系では従属変数だけでがなく、パラメータ変数達α̌_iも重要です。

結局、τ_iはパラメータ変数α̌_iの正準共役のexpでなければいけないことが分かりました。
#数楽 τ_i = exp(∂/∂α̌_i) です!

古典版パンルヴェ系ではパラメータ変数α̌_i達は具体的な数になることがあるので、他の変数とのポアソンブラケットを考えることには心理的抵抗があります。

おそらくそういう理由でパラメータ変数を含むポアソンブラケットの文献を見つけられなかったのでしょう。
#数楽 パラメータ変数の正準共役の指数函数がτ変数なので、結果的に、私が熱烈に欲しがっていたτを含むポアソンブラケットの文献を私は見つけられなかった。
#数楽 しかし、Weyl群双有理作用の古典版と整合的であるという理由だけで、τ_i = exp(∂/∂α̌_i) が量子版τ変数の正しい定義であることに確信を持てたわけではありませんでした。

そのように定義することによって、何か非自明な定理が出て来なければ正しい定義だと確信できない。
#数楽 古典版τ変数とそれへのWeyl群双有理作用については、「作用の結果が従属変数について多項式になる」という「τの正則性」に関する結果があります。

それの量子版が証明できれば「正しい定義」だと言ってよいだろうと思いました。
#数楽 Weyl群作用や下三角のシュヴァレー生成元f_iのべきが満たすVerma関係式と直接的な関係を持つ形で量子版τ変数を定義できているので、量子版τとKac-Moodyや量子展開環の最高ウェイト表現の理論と量子版τに深い関係があることは主観的に当然だと思えました。
#数楽 試行錯誤の末、表現のBGG圏へのtranslation functorと量子版τが「そっくり」だと感じるようになりました。
#数楽 そして、量子版τへのWeyl群双有利作用の結果はtranslation functorの分だけ異なるVerma加群のsingular vectorの商で書け、BGG圏へのtranslation functorの作用も有名な性質から、その商が割り切れる(量子版従属変数の非可換多項式になる!)ことが分かった!
#数楽 非可換環の元が非可換環の別の元で割り切れることを直接の計算で示すことは、簡単な具体例でもおそろしく大変で、実際にやると、神経がやられるくらい辛いことになります。

割り切れないと困るのに、計算ミスで割り切れないとなったとき、実際には計算ミスであるかどうかはすぐに分からない。
#数楽 1つでも割り切れない例を作れればアウトなのですが、計算ミスをすると割り切れない例が簡単に作れてしまう。

本人は計算ミスをしている自覚は全然ないので、精神的に大変なことになるわけです。
#数楽 そういうのは嫌なので、コンピュータの数式処理系も使うのですが、そのときに使っていた某数式処理系での非可換環の行列計算に関するバグを踏んでしまったこともありました。

コンピュータで計算したので正しいだろうと思うのですが、本当に正しいなら、自分の予想は反例によって潰れてしまう。
#数楽 1週間くらい眠れず、死にそうになりながら、バグの存在を確定させるようなミニマルなサンプルコードを作って、開発元に報告しました。

数式処理系で得た計算結果も絶対的に信用できるわけではないことを、これ以上ないくらいの経験で納得することになりました。
#数楽 結局、BGG圏に作用する平行移動函手の有名な性質を使えば、割り切れて欲しいものが割り切れることを示せることがわかってめでたしめでたし。

圏と函手の良い性質が、量子版τ変数の正則性(多項式性)のような具体的な事柄と関係していることは面白いと思いました。
#数楽 要するに、古典版で数学的に非常に良いものの量子版(q差分版の意味ではなく正準量子化の意味での量子版、もちろん微分版の量子版だけではなく、q差分版の量子版も扱っている)をどのように適切に構成するかという問題は、「色々な意味」で非常に面白いということを言いたかった。
#数楽 古典版でのPoisson括弧の式は大変なヒントになり得るが、さまざまな理由から考えられていなかったりする場合もある(面白い)。

非可換環内での計算を手で行うと死にそうになる(面白い)。

非可換環内での計算をコンピュータにやらせるとバグを踏んでひどい目に会うことがある(面白い)。

続く
#数楽 有効なヒントは、文献探索ではなく、近場にあった(長谷川さん、名古屋さん)。これも面白い。

量子版のτ変数の非可換性はパラメータ変数の正準共役の指数函数として得られる(面白い)。これは量子版τ変数がパラメータの差分作用素になっていることを意味する。

続く
#数楽 ものすごく素朴な計算の積み重ねで見つけたformulationを見ると、表現のBGG圏に作用する平行移動函手とのもろに関係していることが分かり、従属変数に関する非可換多項式性もそこから従うことがわかった。

これは非常に面白い。大昔にτ函数について勉強したときには想像できなかった世界。

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More from @genkuroki

12 Nov
#Julia言語

C++は避けるべき。

できあいの統計関連のライブラリやパッケージを主に使うなら、Rが多分良くて、Pythonも良いと思います。

サンプルコードでアルゴリズムも示したいならば、ほぼJulia一択だと思います。

実際、須山敦志さんはJuliaを早くから使い始めて大成功しているように見える。
#Julia言語

machine-learning.hatenablog.com/search?q=Julia
で須山さんによるJuliaを利用した確率統計の学び方を知ることができる。Juliaは高速かつ強力かつ気楽に使えるので、試しに自力実装するのに非常に向いている。

amazon.co.jp/dp/4065259800
Juliaで作って学ぶベイズ統計学 (KS情報科学専門書)
2021/11/26
須山敦志
#統計 #Julia言語

コインを20回投げたときの表が出る回数の分布は正規分布で近似される。

Juliaのコードがシンプルであること、確率分布を意味するオブジェクトを作って、確率函数、乱数、プロットで使えること、などに注目!

nbviewer.org/github/genkuro…
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12 Nov
子供のときに「くもわ図」や「きはじ図」「みはじ図」「はじき図」「木の下のハゲじじい図」(笑)で問題を解くことを教える先生に当たった人は、大人になった自分自身がそれで不自由を感じていなくても、「運が悪かった。そのような教え方は子供を害する」と思っておく必要があります。
❌「くもわ図」や「きはじ図」には算数が苦手な子を救う効果があるので、算数が苦手な子には「くもわ図」や「きはじ図」を教え込もう

と考えるのは非常にまずいです。

子供を害する(子供の頭を悪くする)教え方を、特に算数が苦手な子にはする習慣になると、その子が救われることがなくなる。😭
算数が苦手な真の原因は「公式を暗記できないこと」ではなく、「算数だと常識に沿って考えることができなくなる」や「計算が苦手」な場合が多いと思います。

計算が苦手でも常識に沿って考えることができてかつ公式の使用を強制されなければ問題を解ける場合が増えます。続く
Read 8 tweets
11 Nov
#統計 私は、WAICユーザーの大部分がWAICを誤用している疑いがある血思っています。

ベイズ統計ユーザーの多くは階層化されたモデルを使っていると思います。その場合には内部パラメータで積分してWAICを求める必要があります。手動でそうする必要があるし、計算量も大きく増える。
#統計 日本はWAICの発祥地なので(笑)、日本語圏ではWAIC(やLOOCV)の誤用に関する情報を手に入れ易い。

いれいさんもWAICを簡単に誤用できることと、誤用せずに済ませることが大変なことに気付いている。
#統計 HiroさんもWAICの誤用に気付いている。

Stanのような確率プログラミング言語で記述される「モデル」の情報(よくグラフィカルモデルで表現される)だけでは、予測分布が一意に決まらず、汎化誤差もWAICも確定しない。

通常の場合には「周辺化」版予測分布を使わないとアウト。
Read 10 tweets
11 Nov
#統計 slideshare.net/simizu706/waic を見ているのかな?

もしもそうなら松浦健太郎さんの

statmodeling.hatenablog.com/entry/waic-wit…
階層ベイズモデルとWAIC

が参考になると思います。StanやRの世界が当時より進歩しているので、もっと良い方法があるかもしれませんが、WAICの実装での考え方を学ぶことができます。
#統計 階層モデル(階層ベイズ)関連
#統計 階層モデル(階層ベイズモデル)達のモデル選択は結構大変だよという話関連。Stanなどの確率プログラミング言語で記述される「モデル」の情報だけから、予測分布の定義は確定しないので、情報量規準による予測精度の推測によるモデル選択は注意を要する。
Read 16 tweets
11 Nov
#超算数 かけ算順序問題について教育関係者の多くは「順序が逆なだけでバツにするのは好ましくない」と言います。

しかし、本音では「4人に3本ずつ鉛筆を配る場面で4×3と式を書く子はかけ算の意味を理解していない」と思っており、児童にかけ算の順序を教え込まなければいけないと思っていたりする。
#超算数 質問の内容は可能な限り具体的なものにする必要があります。

例えば、添付画像1のように聞いてみるとよいかもしれません。

「②の式を2×5にする子も問題なくかけ算を理解しているとどの先生も思っている」言ってもらえたらやっと信用できます。

続く Image
#超算数

教科書出版社側は②で5×2としなければいけないことを教え込むためにこの問題を載せています。添付画像1の教科書のマニュアル本の記述を見て下さい。

そしてそういう問題を出す直前のページで交換法則が一般的に成立している理由を教える構成になっています(添付画像2)。 ImageImage
Read 13 tweets
10 Nov
#Julia言語 デフォルトのコンストラクタ:

struct Kuma{T}
p::Tuple{T, T}
end

とするだけで、デフォルトのコンストラクタ達

* Kuma(p::Tuple{T, T}) where T
* Kuma{T}(p) where T

が定義され、後者は引数の型変換も行なってくれる。

多くの場合にこれで十分。

github.com/genkuroki/publ… Image
#Julia言語 struct ~ end の内側に自前のコンストラクタの定義を書くと(内部コンストラクタを定義すると)、それらのデフォルトのコンストラクタは定義されなくなります。

複雑な内部コンストラクタが沢山書いてあるコードは読み難いの出注意。 Image
#Julia言語 デフォルトのコンストラクタを破棄したい理由がある場合や、`new`を使わないとできないことをやる場合以外に、内部コンストラクタは無理に使わない方が良いと思う。

使う場合にも内部コンストラクタの個数はできるだけ少なくするべき。

公式ドキュメント
docs.julialang.org/en/v1/manual/c… Image
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