今なにが問題になっているかというと、広い意味の応招義務なんですよ。

もともと応招義務は、医師個人の義務として規定されており、カバンもって往診している時代だったらそれでよかったんだけど、救急車の普及によって、個人の義務はほとんど機能しなくなりました。だって、問題になる事案は、
10件以上電話をかけても受入先が見つからず、110番・救急車到着から搬送までのロスタイムが生じるという形になるところ、その10件の医療機関に責任を負わせるわけはいかない。
また、法令上の応招義務を負うのは医師個人であり、救急車受入は医療機関が窓口になっているので、その点でも齟齬があった。
なので、30年くらい前の段階で、応招義務は従来の医師法上の医師個人の義務は機能しないこと、地域が患者を受け入れられるように体制整備をする義務に組み替える必要があることは、明らかだったのです。
一例として、畔柳弁護士の論稿を引用します。
med.or.jp/doctor/member/…
この拡大された応招義務について、救急の問題とそうでない問題の両方を分けなければなりませんし、コロナ禍対応については、さらに応用問題になります。コロナ禍に対応できるキャパシティを常に備えるのはおそらく難しく、緊急時に機動的に増強できるような枠組を整備しておくべきということでしょう。
私は5年前に論文を書いて、医療現場は、応招義務の虚像(例外の無視)によって疲弊していること、通達や判例をきちんと整理することで正当事由の例外の明確化を主張しました。これは、医師個人の応招義務は問題を解決できないとの問題意識が背景にありました。
ci.nii.ac.jp/naid/400209789…
その後の通達(通達制定のための研究会に私も随行として立ち会った)は、「ただし、1類・2類感染症等、制度上、特定の医療機関で対応すべきとされている感染症にり患している又はその疑いのある患者等についてはこの限りではない。」として、新型コロナ感染症のような類型を例外事由にあたるとした。
通達はこちら
mhlw.go.jp/content/108000…

この通達自体は間違っていないと、今でも思っています。入院できない状況になったとして、開業医の門前で騒いだところで、問題は解決しませんから。
ただ、通達により、個人の応招義務の免除が明確になったのはいいのですが、そこで需要に応える体制が整備されていなければ、個人からみて実質的に、応招義務の底が抜けた状況になってしまいます。
逆にいうと、都道府県知事なり市町村長なりに、応招義務を負わせて、医師会と協力して責務を果たさせる
ような法制度にする必要があるということです。

なぜ、必要な感染者を受け入れる(悪い言葉を使うと収容する)臨時医療施設が作られないか。
色々な原因がありますが、そのうちの一つは、政府・自治体が広い意味の応招義務を負っていないし、その準備もないからです。
それから須賀先生が指摘しているが、仮設病棟は既に実例があり、うまく機能しなかったらしい。
一つは警察官宿舎の改造が利用されなかったと問題になっており、もう一つは日本財団が設置したもの。あまり経緯は追っていないが、検討が必要。他にもあるかもしれない。
警察官宿舎の改造:
asahi.com/articles/ASP47…
こういうのが、「無駄遣い」と批判されてしまうようではよろしくないですね。無駄を承知で準備するものだから。(引用の記事でも、使われないことへの批判の論調は否めない。)

結局、政府・自治体に、こういう施設を整備・準備する義務があると位置付けるほかないのではないだろうか。
ただ、日本財団の施設を見ると、都は入院施設と捉え、日本財団はホテル療養(宿泊療養)想定だったということ。警察の施設は、宿泊療養想定。

問題になっているのは、重症者の入院キャパなので、上記施設では足りないことになる。また、諸外国の緊急入院施設が、どの程度のケアに対応したものなのか。
いずれにしても、政府・自治体に適切な医療ケアを提供する義務があると規定して、そのために何が必要なのかを責任もって議論・準備・整備する必要があると思う(もちろん、そこに医師会が協力する必要があるし、政府の徴発権限も必要だろう。)。
個人的には、緊急時の野戦病院増強みたいなことは、軍隊の仕事だし、災害法制の発想が必要と思っています。

日本は軍隊の役割が弱いし(諸外国で軍隊がどのような役割を担っているのかは、気になっている。)、災害法制がコロナ禍に適用できなかったのも問題。
災害法制については昨年のシンポジウムで津久井先生にお話をお願いした。
その後、論文とか出ているのだろうか。
まとめました。
togetter.com/li/1755319

• • •

Missing some Tweet in this thread? You can try to force a refresh
 

Keep Current with 弁護士 吉峯耕平(「カンママル」撲滅委員会)

弁護士 吉峯耕平(「カンママル」撲滅委員会) Profile picture

Stay in touch and get notified when new unrolls are available from this author!

Read all threads

This Thread may be Removed Anytime!

PDF

Twitter may remove this content at anytime! Save it as PDF for later use!

Try unrolling a thread yourself!

how to unroll video
  1. Follow @ThreadReaderApp to mention us!

  2. From a Twitter thread mention us with a keyword "unroll"
@threadreaderapp unroll

Practice here first or read more on our help page!

More from @kyoshimine

6 Dec 20
まぁ、草津は野蛮だとか言ってるアカウントのほとんどはきちんと情報を見てないですよね。
外野より真剣に検討したであろう町民が、男女問わず大多数リコールに賛成してるわけだから、それなりの理由があるとは思わんのだろうかね。差別意識丸出し。
町の女性ほとんどをまるごと名誉男性認定とか、すごいですね。
まぁ、宇崎ちゃんのとき献血ボイコットしてた人だからなぁ。
町の住民の主体性を認めず、自分の「こうあってほしい」というのを押しつけてるだけなんだよな。

これだけ丸出しのヘイトスピーチが大量に流れるって、イマドキの日本ではまず見られない現象ですよね。言ってる人は(根拠ないのに)正義だと思ってるからタチが悪い。
Read 12 tweets
4 Dec 20
野党提出のインフル特措法・感染症法・入国管理法改正案はこちら。(検疫法は……?)
shugiin.go.jp/internet/itdb_…
shugiin.go.jp/internet/itdb_…
ざっと読んで気になったのは、

・自宅療養/宿泊療養を法制化するのはいいけれど、なぜか感染症法ではなく、インフル特措法に取り込んでいる

・入国管理法で上陸拒否事由を追加するのはいいけれど、上陸させたあと検査して、そのあとどうするかというのが大事で、検疫法の改正も必要
・自宅療養/宿泊療養は検査陽性の場合なんだから、罰則をつけるかどうかはともかく、法的強制力はつけて然るべきなんじゃないかな(措置入院と同様)

・保健所の機能強化が抜けてない?
Read 6 tweets
6 Aug 20
PCR検査陽性→隔離の場合、何を契機にPCR検査をするにしても(発症、濃厚接触、その他)、PCR検査の結果が出るまでのスピードが隔離の効果を決める。
論文によると、二次感染の44%が発症前に生じており、発症から数日後に隔離しても、隔離の効果はほとんど期待できない。
接触追跡(COCOA含む)や定期検査など、何らかの理由で発症前にPCR検査を実施した場合、早いタイミングで隔離できる可能性がある。
その場合でも、検査オーダー出してから結果が出るまで何日かかるかが非常に重要だし、そもそも検査結果待たずに隔離できればそっちの方が良い(接触追跡の場合等)。
発症→診断まで平均5.2日の根拠はこちら。7/31の分科会の資料です。かなり早くなっているのは、なんだかんだ言って検査体制が整ってきたということか。
Read 12 tweets
31 Jul 20
都市のどういう場で感染が起きるかについての西浦先生の研究が、データを提供した自治体のイチャモンで公開できないという。
感染制御のための貴重な知見が封じ込められているのは大問題!

新型コロナ対策、研究と政策現場での6ヶ月~西浦博教授ロングインタビュー~ costep.open-ed.hokudai.ac.jp/like_hokudai/c…
「他にも流行がはじまった2月頃から年齢だけではなく、伝播が起こる場(夜間の接待飲食業や医療・福祉など、数か所のみの区分)についての分析も、データ情報が豊富な特定の都市部のみを対象に自主的に分析をしました。これは接触の削減目標などで後にも重要になるのですが、このデータは地方自治体に
所有権があり、僕たちも関連する研究成果を公表できるに至っていません。」
Read 5 tweets
29 Apr 20
え? この記事なにいってんの?
接触者調査からPCR検査をして、陽性者が出たら隔離するという流れで、積極的疫学調査をやるわけでしょ。PCRの使いどころは擬似症サーベイランスと積極的疫学調査なんだけど、なんでPCRと積極的疫学調査が対立概念になってんの?

toyokeizai.net/articles/-/347…
確かに現在の積極的疫学調査では無症状の濃厚接触者のPCR検査は原則としてやらないけど(隔離だけやる)、これは検査能力の節約と、陰性がでても偽陰性かもしれないから隔離は継続しないといけないからでしょ。

それから、感染前の濃厚接触者は感染源かもしれないからPCR検査積極的にやるんでしょ。
善意解釈すれば、積極的疫学調査(クラスター潰し)と擬似症サーベイランスにPCR検査を使うのだけど、後者がおざなりになっているということかな?

私は単にどっちも必要なんではと思うし、どっちを優先するかという検査戦略の問題は、検査能力拡大が進まないこととは関係がないのでは。
Read 12 tweets
19 Feb 20
理解できてないわけないと思うが。

対国家規範が、コードに影響するのは普通のこと。
投票いった? って聞いても違法じゃないけど、控えるべきってコードに普通はなってるでしょ。
どういう理屈で、コードを無視していることになるのか、
素っ裸で公道にでる、裏ビデオの公共放送がOKになるのか、説明してもらえますか?
Read 36 tweets

Did Thread Reader help you today?

Support us! We are indie developers!


This site is made by just two indie developers on a laptop doing marketing, support and development! Read more about the story.

Become a Premium Member ($3/month or $30/year) and get exclusive features!

Become Premium

Too expensive? Make a small donation by buying us coffee ($5) or help with server cost ($10)

Donate via Paypal Become our Patreon

Thank you for your support!

Follow Us on Twitter!

:(