物理学の一番大きな売り物は、世界観です。地球は平坦ではなく丸く、宇宙という空間に浮かぶ天体であり、地上の重力と天体の運動は同じ法則に支配された現象と判明しました。人類の考え方を大きく変えるのが、物理学です。基礎科学である量子情報物理学でも、そういうところに大きな面白みがあります。
素粒子や宇宙などの理論物理学は世間で言うところの実学とも繋がっています。そもそも量子コンピュータの着想は理論物理学者のファインマンさん。具体化したドイチェさんも量子重力研究者。量子情報分野で有名なラフラメさんはホーキング博士の学生でした。同様にプレスキルさんも素粒子論研究者です。
ブラックホールとかビッグバンとかを考え続けることは、このように人類が新しい着想を得る重要な切っ掛けにもなってきました。この基礎物理学研究の底力を、この国でももっと認識されれば良いなぁと思っています。
ブラックホールの量子力学を考え続ける中から、スピンオフとして量子メモリや量子コンピュータ等への新しいアイデアが生まれてきますし、また応用としての量子情報技術の成熟が、例えばブラックホール情報喪失問題に対して新しい視点やアイデアを与えてくれるのが、この分野の現在の世界的な状況です。
今では量子力学の研究は多岐に渡るようになり、量子コンピュータや量子通信などの工学的な応用も活発に行われています。基礎の中の基礎としての基礎物理学であった量子力学の研究は、応用工学の最先端に躍り出ている現状です。またこの量子技術の進展は基礎物理学にも大きなフィードバックを与えます。
現代物理学において、この量子力学は重要な柱になっています。またその研究は多くのサプライズを人類に与えてきました。五感で感じる物体や時空は、決して感じるままの存在ではないことを教えてくれます。この世界の全てのモノは「そこにはっきりと実在する」という単純素朴な存在ではないのです。
現在人類が手にしている、到達できるミクロ領域でも実験的に検証済みである根源的理論は、場の量子論です。素粒子の標準理論も、この場の理論で記述されています。その場の理論における「存在」の概念とは、日常とは随分違うものになっています。
そのことを教えてくれる1つが、ウンルー効果です。等速直線運動をしながら真空状態の場と相互作用する測定機はもちろん粒子を観測しませんが、同じ真空中を一様加速度運動する測定機は、量子場がもつ零点振動を、加速度に比例した温度の粒子の集まりとして観測するのです。mhotta.hatenablog.com/entry/2014/05/…
このような基礎的理論研究が将来の革新的な技術の「揺り籠」になれるという事実を、この国の政治や科学政策にかかわる方々にも、もっともっと知って欲しいと願っています。
海外ではもうそういうことを十分に理解して、基礎研究を育てようとしています。

「量子力学を情報理論の一種とすれば、量子情報でこの世の機序を理解しようとするのは当然の流れだ」

「米国科学技術政策局は量子情報による宇宙の理解を「量子フロンティア」の一つに挙げた」
newswitch.jp/p/24460

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16 Aug
量子光学を使った連続変数(CV)の量子コンピュータも、任意のユニタリー操作が少数の量子ゲートの繰り返しで構成できます。他の調和振動子系でも、同様の量子ゲートを実装できれば、量子コンピュータを作ることができます。#入門現代の量子力学

strawberryfields.ai/photonics/conc…

量子コンピュータを実装できる調和振動子などの粒子系では、エネルギー的に許される場合に、任意のエルミート演算子に対応する物理量が測定ができることになります。このことは量子力学基礎論での、エルミート演算子と物理量の対応関係の問題を、肯定的に解決しています。
strawberryfields.ai/photonics/conc…
なお超選択則のある場合でも、全保存量が一定値をとれるところまで合成系を拡大しておけば、その合成系での任意のエルミート演算子は測定可能な物理量に対応していることもわかります。

Read 4 tweets
16 Aug
#入門現代の量子力学 では正準量子化を敢えて除外しました。その理由は、

①物理量が演算子化し、それが作用する複素数値の波動関数が現れて、誤解させるような無駄な神秘性を感じさせること。

②現代的量子力学ではハミルトニアンという物理量の形でさえ、本来は実験で決定されるべきもの。

です。 Image
①は前期量子論+正準量子化という従来の教科書路線で出てくるもので、解析力学の勉強も必要な長く険しい道でした。波動関数の意味が最後まで曖昧なため、存在しない観測問題に人々を縛り付け、多世界解釈などの不要な様々な解釈まで作り出したわけです。それを避けるために正準量子化を除外しました。
②は正準量子化だと、「ハミルトニアンはこういう形」と書いてから、実験でその形は検証されたという順になります。しかし正準量子化が常に正しいハミルトニアンを与える保証はありません。例えば演算子順序の問題もありますし、そもそも量子重力などで、それが成功する保証はどこにもないのです。
Read 10 tweets
23 Feb
メメント・モリが注目ワードに上がっていますが、自分の「生」ときちんと向き合って、そして自らの血を常に沸き立たたせながら、自由に大きく生きられるようにと、特に若い物理学徒の皆さんに向けて祈っています。
今は若者であろうと、年寄りであろうと、誰であろうと、有形無形の様々な「銃口」を向けられる激動の時代の始まりです。これからは明日自分はこの世界にいないかもという感覚も生まれる時代でしょう。そういう環境の中で「撃つなら撃て。十分に生きた!」と言い切れる人生は、一つの理想だと思います。
長い人生でも短い人生でも、その中には春夏秋冬がきちんと納まっていると言った昔の人もいました。人生は長短ではなく、その内容です。老人であろうと若者であろうと、悔いの無い自由な生き方を模索することこそが大切な時代なのだろうとおもっています。
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23 Feb
過去の量子力学の教科書で多い誤解は、

(1)ド・ブロイ波(物質波)は物理的な実在。

(2)測定時間とエネルギー測定誤差にはδtδE≥(ℏ/2)という不確定性関係がある。

(3)古典力学を正準量子化すると正しい量子力学がいつでも得られる。

というのがありますが、どれも正しくないです。
(1)について、量子力学に出てくるψ(x)は物理的実在の波ではなく、対象系の情報としての波動関数です。
Read 4 tweets
20 Feb
前世紀で水素原子が量子力学構築に果たした役割は大きいし、その物理は推理に推理を重ね、実験に実験を重ねて、人類が手にした叡智。でも今世紀は原子物理学や物性物理学の最初で扱われるべき対象だと考えています。例えば水素原子の摂動論を細かくやる必要は物理学徒全員に必要かと思うわけです。
「その物理は推理に推理を重ね、実験に実験を重ねて、人類が手にした叡智だから、水素原子を量子力学の授業から外すな」という主張があれば、水素原子よりも素粒子の標準理論こそがその位置にあるべきで、素粒子標準理論を量子力学の授業で教えるか?という問題でもあります。
自分はこの動画講義のスタイルが一番良い気がしています。「量子力学」ではなく、「原子物理」と銘打って、水素原子も扱い、最後には素粒子標準理論まで解説されています。これが現代的な1つのスタイルとして推奨されるかなと思っています。
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11 Apr 20
これは駄目な解答の典型例ですね。ちゃんと物理学者に答えさせないから、こうなるのです。⇒
<どんなに科学が発達しても「タイムマシン」を絶対に作れない理由 <子どもの素朴な疑問に学者が本気で答えます> a.msn.com/01/ja-jp/BB12s…
引用『「過去の時間」は「変化する前の世界」であり、「未来の時間」は「変化するであろう先の世界」になります。どちらも、「現実の“物”の世界」としては存在していません』
引用『すなわち、私たちが想像するタイムマシンが、物の世界の法則に従う機械である以上、存在していない物の世界を行ったり来たりできないのです。SF作家は、「世界」が存在し「時間」もあるらしい、ならば、「過去や未来の世界」も存在するはずだ、と誤解したのでしょう』
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