日本とヨーロッパでは、有機農業への受け止め方が全然違うように思う。日本では、有機は健康によい、というイメージが先行。けれどヨーロッパは環境に悪影響が少ない、という理由で推進されている。
これは風土と歴史の違いによるのかもしれない。
日本は雨が多い。たいがいのものは洗い流されてしまう。広島は原爆のため、爆心地は向こう10年、草も生えないだろうと言われていたのに、翌年には生えてきた。雨が土を洗い流したからかもしれない。公害も、有害物質の排出止めたら大幅改善。化学農薬の効き目も比較的早くに失われる。
他方、ヨーロッパは大陸性の気候で、雨が比較的少ない。産業革命で石炭焚くと酸性雨が降り、多くの森林が失われ、なかなか回復しなかった。第一次、第二次大戦で化学兵器が使われると、非常に長い間汚染されたままだった。化学農薬もよく効く。いったん環境を汚染すると回復しづらいらしい。
ヨーロッパでは、次世代になるべくよい環境を引き継ぐというのは、乾燥がちな大陸では、とても身近な感覚となるらしい。いったん汚染されたらなかなか回復しない大陸の気候では、大地を汚さず、次世代に譲り渡すことが切実な願いになるのかもしれない。
しかし日本はその感覚を持ちにくい。なにしろほっとけば草が生える国。雨はザーザー降る。たいがいのものは「水に流す」気候のため、「次世代によりよい環境を」という感覚になりにくいのかもしれない。高温多雨な日本の気候では、生命の復元力がやたら強くて。
中国山東省の農村に行ってびっくりしたのは、雑草がないこと。まるで砂漠。近くの山々も禿げ山。農地だけ、農業用水から汲み上げられた水をもらって育ってる。雑草が一つも生えてない畑、それも畦に草一本生えてない畑を見て、カルチャーショック。雨が少ないと雑草も生えないのか!
そんな雨のない土地でヘタにクスリをまいたら、いつまで経っても分解されず、洗い流されもせず、という状態が起こり得る。また、雑草がなければ害虫も生き延びられない。有機農業を実施しやすい。ヨーロッパで有機農業が盛んなのは、乾燥がちな気候に助けられているように思う。
他方日本は、高温多湿で病気も虫も多い。たとえ畑に農薬まいて病害虫をやっつけても、雑草から舞い戻ってくる。草刈りしても除草剤まいても雨が降りゃすぐに雑草は回復する。そんな環境の中では、有機農業はなかなかハードルが高い。どうしても虫食いのある作物になる。
少し話を戻すと、いったん汚染されるとなかなか環境が回復しないことを知ってるヨーロッパの人たちには、「環境を守るため」が、とても身近な感覚として持てるらしい。ところが日本は雨が洗い流して環境がすぐ回復してしまうという気候のため、環境というとどうも理念的にしか感じられなくなる。
そんな日本で苦労して有機農業を進める一つの論理として、「体によい」を前面に押し出すのが最も有効なアピール方法だったのだと思う。ただ、ヨーロッパでは健康によい、という理由で有機農業をアピールする面は弱いという。やはり、環境への負荷をかけたくない、というのが一番の理由。
私も、有機農業を推進する一番の理由は、生態系に生きる生き物たちに悪影響を与えないように、という、環境面。ところがどうも雨の多い日本では、環境問題は理念的な言葉にしか聞こえない。これが、有機農業の伸びない一つの理由になっているように思う。
まとめました。

有機農業の受けとめ方の違い|shinshinohara #note note.com/shinshinohara/…

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1 Jan
この記事を書いたら、化学農薬は無害で安全安心だとまで勘違いして読む人がいた。人体に蓄積する心配はまずなく、むやみに心配する必要はないと言う意味で書いたが、それ以上のことは言っていない。化学農薬は生態系のどこを痛めつけるかわからない点は注意が必要。
note.com/shinshinohara/…
実験室で化学農薬が天敵昆虫(害虫を食べる昆虫)に作用しないことを確認した上で農地に散布しても、害虫だけでなく天敵昆虫も姿を消してしまう現象が起きることがある。天敵昆虫は害虫以外も食べて生きていけるはずなのに。生態系のどこかを痛めつけ、天敵昆虫が生きていけない環境に変わるらしい。
私自身の体験。蒸留水だとお金がかかるということで、純水としては少し品質が劣るイオン交換水で微生物を培養した。すると、目的の酵素をほとんど作らなくなった。イオン交換水だって純度のかなり高い水のはずなのに。原因がわからず、蒸留水を使って培養したら元に戻った。
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1 Jan
私が現在の子育て観を持つに至ったのは、トマトと微生物のおかげかもしれない。どちらもこっちの言うことを聞いてくれないからだ。
トマトは人間の言葉がわからない。伝わらない。だからいくら「ちゃんと育てよこのやろう!」「何をやってるんだ!」と怒鳴っても、トマトは全然育ってくれない。
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20 Dec 21
阪神淡路大震災の時、散髪屋さんがボランティアで無料散髪。被災者にとても喜ばれ、定期的に開催した。
被災地が少し落ち着いてきたある日、地元の散髪屋という人から声をかけられた。
「あんたは善意やろうけど、それやられると、ワシら生活でけへんねん」
それできっぱり、無料散髪をやめた。
サービスを受ける消費者からすると、タダで散髪してもらえたらその分生活費が浮き、助かる。しかし散髪屋は全く客が来なくなり、収入がゼロになり、生活できなくなる。その人は「消費者」でさえいられなくなる。すると、社会から一人、消費者が消える。結果的に消費が減り、誰かの収入が減る。
無料というのは、究極のダンピング(不当な安売り)。消費者は生活費が浮いて助かると考え、ついそのサービスを受けてしまうが、そうすると、そのサービスを有料で提供することで生活している労働者であり消費者の生活を破綻させる。無料、あるいは不当に安いサービス・商品は、誰かの生活を破壊する。
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18 Dec 21
ストッキングの袋詰めを内職に出すことに。まずは一箱どのくらい手間がかかるか調べなくては。両親二人で三時間。ということは、一人だと一箱六時間かかる。それを参考に、一箱あたりの内職代を決めた。案の定、慣れてきた人でも四時間を切ることはできなかった。ところが。
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11 Nov 21
働きの悪い会社や個人は退場してもらい、優秀な企業、個人に活躍してもらった方が製造業もサービス業も生産性が向上し、消費者に安く良質なサービスが提供できる、これは経済的にもよいことだ、と私は信じさせられている。実はこの考え方、現代だけでなく、戦前に強く信じられていた。
しかし、失業させられた人には収入がなく、安くて良質なはずの製品やサービスを購入することはできない。結果、粗悪でもっと安いものを買うしかなくなる。あるいは、そんな安いものさえ買えなくなる。デフレが加速する。社会格差が拡大する。戦前に起きていた社会状況はまさにこれだった。
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11 Nov 21
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news.yahoo.co.jp/pickup/6409464
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