#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 こんにちは。本日の「イギリスの文学」の授業を始めます。今日は20世紀前半の詩と演劇についてです。主に第一次世界大戦の戦争詩とアイルランドの演劇について話します。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 まずは先週も話した第一次世界大戦の写真を見てください。第一次移籍の塹壕などの写真はけっこういろいろ残っており、イギリスに限らず英連邦諸国の各地の博物館などで見ることがでいます。
commons.wikimedia.org/wiki/File:Ches…
commons.wikimedia.org/wiki/File:Aust… ImageImage
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 1914~1918年の間、第一次世界大戦に従軍した兵士を中心として多数の戦争詩人(War poets)が生まれます。第一次世界大戦は先週もお話したように、塹壕で待っているせいで待ち時間はありますが、戦闘が始まればいつ死ぬかわかりません。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 今と違って待ち時間をつぶすためのゲームもSNSもありません。そういう背景もあって、詩がやたら流行ります。塹壕新聞で「片手に[詩の]ノート、片手に爆弾」(これは誇張でしょうが)などと揶揄されるくらい流行りました。
theguardian.com/media/greensla…
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 イギリスの大きい博物館に行くと塹壕の模型があったりして中には入れるのですが、狭くて暗くて臭くて気が滅入るような空間です。実物はさらにひどかったはずで、塹壕足などと呼ばれる足の病気も流行ります。そういう中で詩が生き甲斐のひとつになるわけです。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 著名な戦争詩人としてはルパート・ブルック(Rupert Brooke, 1887–1915)、シーグフリード・サスーン(Siegfried Sassoon, 1886–1967)、ウィルフレッド・オーウェン(Wilfred Owen,  1893–1918)、ロバート・グレイヴズ(Robert Graves, 1895–1985)(続)
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 アイザック・ローゼンバーグ(Isaac Rosenberg, 1890–1918)などがいます。没年に注目してほしいのですが、ブルック、オーウェン、ローゼンバーグは第一次世界大戦中に戦死あるいは戦病死しています。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 生き残ったロバート・グレイヴズは小説家・文芸批評家としても有名になり、歴史小説『この私、クラウディウス』( I, Claudius, 1934)や評論『白い女神』 (The White Goddess, 初版1948, 改版1952, 1966)などを刊行しています。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 戦争詩人のバックグラウンドはいろいろです。大学教育を受けたエリートもいるし、ローゼンバーグは名前からわかるようにユダヤ系で、庶民の息子です。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 有名な詩として、オーウェンの"Anthem for Doomed Youth"などがあります。以下でテクストを読むことができます。
poetryfoundation.org/poems/47393/an…
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 それでは戦争詩から離れて20世紀前半の他の有名な詩人にいきましょう。T・S・エリオット(T. S. Eliot)の生没年は1888-1965、アメリカ、ミズーリ州セントルイス生まれですが、成人してからイギリスに居住していました。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 エリオットは詩のみのならず、文芸評論などの分野でも活躍しており、きわめて影響力の大きい詩人です。教科書はp. 123に説明がありますので、ここをよく読んでおきましょう。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 エリオットの代表作はモダニズム詩の代表作である「J・アルフレッド・プルーフロックの恋歌」‘The Love Song of J. Alfred Prufrock’, 1915)や20世紀の英詩の中でも最も影響力が大きい作品のひとつである長詩『荒地』(The Waste Land, 1922)などです。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 「四月は一番残酷な月」で始まる詩『荒地』はかなり長いですが非常に有名です。教科書p. 128に冒頭が載っているので、見てみてください。ただしモダニズムの詩というのはあまり簡単ではありません。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 それからW・H・オーデン(W. H. Auden)にいきましょう。生没年は1907-1973です。教科書p. 124にあるように、イギリスのヨーク生まれですが、のちにアメリカに居住しました。オクスフォード大学の詩学教授になっています。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 教科書p. 124に説明があるようにオーデン・グループと呼ばれる、オーデンの友達の詩人のまとまりがあります。オーデン・グループと見なされるメンバーはスティーヴン・スペンダー(Stephen Spender, 1909-1995)、(続)
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇  セシル・デイ=ルイス(Cecil Day-Lewis, 1904-1972、桂冠詩人で俳優のダニエル・デイ=ルイスの父)、北アイルランド出身のルイス・マクニース(Louis MacNeice, 1907-1963)などがいます。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 それから教科書p. 124にのっているディラン・トマス (Dylan Thomas)です。生没年は1914-1953、ウェールズのスウォンジー出身の教師の息子で、ウェールズを代表する詩人で英語で著作しました。BBCにつとめた後、詩人になります。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 ディラン・トマスには飲酒癖があり、体を壊して早く亡くなっています。ちなみにディランという詩人といえばボブ・ディランですが、『デンジャラス・マインド』って映画でこの2人の詩人を一緒に教えるっていうくだりがありますね。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 さて、それでは20世紀前半の演劇の話にいきましょう。主にアイルランドの話が多いです。まずはジョージ・バーナード・ショー(George Bernard Shaw)からです。
commons.wikimedia.org/wiki/File:Geor… Image
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 教科書はp. 125を見て下さい。バーナード・ショーの生没年は1856-1950、ダブリン生まれです。ウェズリー・カレッジで教育を受けましたが、大学教育は受けていません。1876年にロンドンに移住し、独学で教養を身につけます。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 ショーは1884年に創立されたフェビアン協会にメンバーとして参加しています。穏健な社会主義であるフェビアン社会主義の立役者のひとりです。批評家として頭角をあらわし、1892年に劇作家としてデビューします。1925年にはノーベル文学賞を受賞しています。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 ショーは戯曲や評論をはじめとして幅広く活動し、自身の戯曲が映画化される際は脚本に携わるなど、新しいメディアでも活躍しました。代表作は『シーザーとクレオパトラ』(Caesar and Cleopatra, 1898)、『ウォレン夫人の職業』(Mrs Warren's Profession, 1902)
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 『人と超人』(Man and Superman, 1903)、『ピグマリオン』(Pygmalion, 1913) 、『メトセラへ還れ』(Back to Methuselah, 1922)、『聖女ジャンヌ・ダルク』(Saint Joan, 1923)、『デモクラシー万歳!』(The Apple Cart, 1929)などです。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 『ピグマリオン』(Pygmalion)は英国の階級社会を辛辣に諷刺した作品です。コックニー訛りを話すロンドンの花売り娘イライザ・ドゥーリトルは、もっといい仕事につくために言語学者ヘンリー・ヒギンズ教授にレッスンを受けることにすします。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 ヒギンズ教授は友人ピッカリングと、イライザを貴婦人のように話す娘に変身させられるか賭をします。イライザは発音をマスターしてヒギンズは賭けに勝ちますが、自分がきちんとした敬意を払われていないと感じたイライザはヒギンズの元を去ります。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 『ピグマリオン』には結末が2種類あります。イライザはヒギンズのところから出て行くというのがもともとの終わり方なのですが、お客さんはイライザがヒギンズとくっつくのを期待しました。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 ショーはこのお客さんのセンチメンタルな解釈や期待が不満で、イライザはヒギンズではなく、別の登場人物であるフレディと結婚するんだと、のちに付け足した前書きで文句を言っています。そりゃ、社会主義者による階級制度諷刺の芝居ですからね。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 ただ、このお芝居ではヒギンズが“I shall miss you, Eliza” (Act V, 275)などと言ったり、ヒギンズとイライザの態度が曖昧で、観客が「誤解」しやすいところがあります。このため、ほとんどの翻案がヒギンズとイライザが結ばれる結末を採用しています。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 『ピグマリオン』 Pygmalion (1938) はショー本人が関わった映画ですが、結末はイライザとヒギンズが好意を抱きあう含みで終わります。ミュージカル化されており、1956年に舞台『マイ・フェア・レディ』My Fair Lady (1956)、1964年に同名の映画ができています
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 この他『プリティ・ウーマン』Pretty Woman (1990、プロットのみ拝借、舞台は現代アメリカ、ヒロインのヴィヴィアンは娼婦)、『シーズ・オール・ザット』She‘s All That (1999、アメリカの高校を舞台にした翻案、ヒロインのレイニーはモテないアート系の少女)
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 『メイド・イン・マンハッタン』Maid in Manhattan (2002、アメリカのホテル業界が舞台、ヒロインはホテルのメイド)などが『ピグマリオン』を緩く参照していると思われます。おそらく現在のポピュラーカルチャーに最も大きな影響を与えた戯曲です。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 ただ、ほとんどの『ピグマリオン』の後継作では、原作にあった階級差別などに対する辛辣な諷刺は薄められており、ロマンティックな喜劇になっています。個人的意見ですが、担当教員はロマンティックな終わり方は実につまらんと思っています。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 教員はきちんとイライザが出て行って終わる『ピグマリオン』の上演を見たことがあるのですが、それはそれは良かったです。階級制度と男性中心主義を批判する芝居として考えるなら、イライザは永遠に戻ってこないでしょう。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 ではアイルランド文芸復興運動にいきましょう。19世紀末にウィリアム・バトラー・イェイツなどを中心に、アイルランドの文化などを題材とする文芸を振興させる動きが始まります。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 1891年にロンドンにアイルランド文学協会が、翌1892年にダブリンに国文学協会が設立されます。1880年代から1891年にかけて、アイルランドの無冠の帝王と呼ばれた政治家チャールズ・スチュアート・パーネルが失脚して亡くなり、(続)
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 これによりアイルランドの政治はかなりの影響を受けました。これ以降、アイルランドのナショナリズムに影響された人々の関心が政治だけではなくむしろ文芸や歴史などに向かったと言われています。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 ゲーリック・リヴァイヴァルと呼ばれるアイルランドのゲール語の復興運動も起こります。アイルランドでは英語と全く異なるアイルランドゲール語が話されていたのですが、だんだん英語に押されて話者が減少し、(続)
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 とくに19世紀にアイルランドを襲ったジャガイモ飢饉のせいで、アイルランドでゲール語を話す人口が激減します。1840年代にアイルランドの主食であるジャガイモがかかる病気が流行って食べ物がなくなり、アイルランドの人口じたいが深刻な打撃を受けました。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 多数の人が亡くなった他、食い詰めた人々が大量にアイルランド国外に流出したため、アイルランドの人口が激減しています。現在のアイルランドの人口は飢饉開始前の1840年の水準まで回復しておりません。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 この際にアイルランドゲール語の話者が死亡したり国外に流出したりしたため、当然、言語の衰退が起こります。そんなわけでアイルランドのゲール語をしゃべる人が少なくなったわけですが、1893年にダグラス・ハイドがゲール語連盟を作ります。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 ハイドはアイルランドゲール語の復興に尽力し、のちにアイルランドの初代大統領になっています。アイルランドの大統領というのは、これ以降、伝統的にハイドのような博識な文人や学識者がなることが多いです。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 さて、では大物にいきましょう。ウィリアム・バトラー・イェイツ(William Butler Yeats)です。生没年は1865-1939、ダブリン生まれ、アセンダンシー(土地など財産を持っているプロテスタント、アイルランドの支配階級に属する)の出身ですcommons.wikimedia.org/wiki/File:Yeat… Image
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 子ども時代はロンドンに住んだこともあり、1880年代末頃から詩人・劇作家として活躍しました。革命家モード・ゴンに激しい恋をし、何度も求婚するが断られ、1917年にジョージィ・ハイド=リースと結婚します。1923年にノーベル賞を受賞しました。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 アイルランドのみならず20世紀の世界文学において最もよく読まれている詩人のひとりです。『アシーンの放浪』(The Wanderings of Oisin、1889)が最初の詩集であり、晩年まで精力的に詩作を続けました。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 『ケルトの薄明』(The Celtic Twilight、1893)のような、散文による民話集も出版しています。戯曲も精力的に執筆し、とりわけアイルランドの伝説に取材しつつ形式的には日本の能をもとにした『鷹の井戸』(At the Hawk’s Well、1916)など実験作も発表しています
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 イェイツは日本でも大変人気がありますが、正直、後期の作品は難しく(担当教員が学生時代に「なんであんなに難しいんでしょう」ってクラスで言ったら「モード・ゴンにふられすぎたせいでは」っていう意見を出した人がいたんですが、これは冗談かな…)、(続)
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 さらに晩年ファシストっぽいところがあり、その詩才は誰もが認めるところですが、コントロヴァーシャルでかなり好みが分かれる詩人かと思います。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 アイルランド文学座の立ち上げの話にいきます。1897年にイェイツ、やはり有名な女性の作家であるレディ・グレゴリー、カトリック教徒でナショナリストの作家エドワード・マーティンが組んで演劇運動を始めます。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 商業的で世間に媚びるタイプの演劇ではない、アイルランド独自の芸術的・前衛的な演劇を目指しました。1899年にアイルランド文学座が設立されたのですが、法的なことで商業劇場を安定的に利用できないとかいろいろ問題もありました。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 ジョージ・ムアとかフロレンス・ファーとかいろいろな文人、芸術家などの協力を得て、5月8日にイェイツ『キャスリーン伯爵夫人』(The Countess Cathleen)とマーティン『ヒースの野』(The Heather Field)を上演します。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 この頃のアイルランドの芝居というのはしょっちゅう演劇史に残るような大きなもめごとやら議論やらが起きるのですが、この際、保守的なカトリックを中心とした『キャスリーン伯爵夫人』への攻撃がありました。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 1903年にアイルランド国民演劇協会ができ、イェイツたちが演劇改革を主導、ロンドン公演も実施されます。イェイツの他、レディ・グレゴリーやジョン・ミリントン・シング、パトリック・コラム、ロード・ダンセイニなど、幅広い作家の作品が上演されました。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 ここでシングの『谷間の影』(In the Shadow of the Glen, 1903)が騒動になります。ナショナリストでシン・フェイン党の立役者であるアーサー・グリフィスなどから批判されました。シング、書くたびに議論が起こってます。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 アビー座(Abbey Theatre)の話にいきます。アニー・ホーニマンの支援を受け、アイルランド演劇運動のための常設劇場、「ナショナル・シアター」としてアビー座が1904年12月27日にこけら落としします。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 イェイツやレディ・グレゴリー、シングなどの作品を新作、リバイバルとりまぜてこけら落としに上演しました。地方公演や海外公演も実施します。アビー座は台詞に重点を置いたシンプルでナチュラルな演技を特徴とし、これは内外で高い評価を受けていました。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 アビー座は今もありまして、『シャーロック』のモリアーティ役でお茶の間にもお馴染みのアイルランドのスター、アンドルー・スコットは若手の時にアビー座で訓練を受けてます。スコットもナチュラリスティックな芝居が特徴ですね。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 アビー座はレパートリー制をとっていました。なお、アビー座はのちに火事で一度焼けてしまうのですが、最初の劇場をデジタル復元するプロジェクトがあります。興味ある人はこちらを見て下さい。/Abey Theatre, 1904 blog.oldabbeytheatre.net
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 それではアイルランドの偉大な劇作家ジョン・ミリントン・シング(John Millington Synge)にいきましょう。生没年は1871-1909
ダブリンの南にあるラスファーナムでプロテスタントの一家に生まれます。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 トリニティ・カレッジ・ダブリンで学んだ後、ドイツやフランスなどで遊学します。アビー座の看板作者で、アイルランド文芸復興運動期の代表的な劇作家です。現在でも英語圏の舞台では人気がある作家のひとりでです。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 代表作は『海に騎り行く人々』(Riders to the Sea, 1904)、『西の国のプレイボーイ』(The Playboy of the Western World, 1907)などの戯曲の他、紀行文『アラン島』(The Aran Islands, 1907)もよく読まれています。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 『西の国のプレイボーイ』(The Playboy of the Western World)は今も人気のある演目ですが、初演時は大スキャンダルになりました。この作品については担当教員がレビューを書いたことがありますので興味がある人は見てください。
wezz-y.com/archives/46075
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 これは変な芝居でして、舞台はアイルランドのメイヨーの海岸近くの村なんですが、村娘ペギーンが仕切るパブへ若者クリスティ・マホンが流れてきます。クリスティが言うには、自分は父親を殺して逃げてきたというんですね。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 村人たちはこの話に大喜びして、殺人でクリスティをつかまえるどころか勇気があると褒めそやします。オヤジ殺しクリスティはモテまくりで、ペギーンと色っぽい寡婦クィンからアプローチされます。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 ペギーンと良い雰囲気になったところで、なんと死んだはずのマホンの親父が現れます。マホンの親父、基本的に不死身でして、なんかこの人、何度殺しても死なないんですよ。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 父親が生きていたことにがっかりして、村人たちはクリスティを臆病者だと罵り始めます。慌てたクリスティは村人に煽られ、衆人環視の前で父親を殺害しますが、今度は怖じ気づいた村人たちがクリスティを逮捕しようとします。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 ところがマホンの親父は不死身ですので、まあ予想できますけど死んでなくて、生還してクリスティを家に連れて帰ってしまいます。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 話だけ聞くとシュールなブラックユーモア劇に思えますが、1907年1月26日にアビー座にて『西の国のプレイボーイ』が初演された際、演劇史上に残る大暴動が発生します。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 前半部分はとくに問題なく好評でしたが、後半部で次ツイートにのせるクリスティの台詞をひきがねに観客が激怒します。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 ‘It’s Pegeen I’m seeking only, and what’d I care if you brought me a drift of chosen females, standing in their shifts itself, maybe, from this place to the Eastern World?’
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 試訳:「僕が望んでんのはペギーンだけだよ、たぶんここから東国まで下着(シフト)いっちょうのより抜きの女たちを一団連れてきたって気にもかけない」
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 ‘shift’という語が下品だとして大騒ぎになり、暴動が発生し、この騒ぎは2月2日まで継続します。下着程度で暴動!?と思うかもしれませんが。単に台詞が下品だというだけではなく、芝居の内容がコントロヴァーシャルであったため騒ぎが大きくなりました。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 このお芝居ではペギーンやクィンがクリスティに猛烈アプローチをするところとかがけっこう生々しく描かれており、クリスティをペギーンがパブに泊めたりするところも当時の性道徳からするとあんまりよろしくない描写でした。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 またまた、自分に関係のないところで起こっている暴力は無責任に面白がる一方、目の前で暴力沙汰が起こるとなすすべもない人たちを描いたこの芝居、ナショナリズム闘争に対する無責任な態度を諷刺しているともとれます。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 他にもペギーンのおやじさんが全然頼りにならなかったり、この芝居はアイルランドの理想化された田舎像みたいなものをブチ壊しにかかっています。それで、こんなふうにアイルランドの田舎を汚らしく描いた作品は良くない、みたいに思う人も出るわけですね。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 「へえ、昔のアイルランドの人たちは見方が狭いな」と思いますか?今、柳美里さんのツイートをRTしましたけど、こういうことを言う人は今の日本にもたくさんいます。理想化されない現実を生き生きと描いたり、ブラックユーモアで描いた作品は今でも攻撃されます
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 『西の国のプレイボーイ』は今ではアイルランド演劇の古典的戯曲のひとつとして英語圏のいろいろな劇場で上演されています。ペギーンやクィンは奥行きのある女性キャラクターとして評価もされています。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 さて、次はちょっと新しい時代になりますがショーン・オケイシー(Sean O’Casey)にいきましょう。生没年は1880年-1964年、ダブリンのプロテスタントの家庭に生まれます。ナショナリストから社会主義者となります。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 「ダブリン三部作」を初めとする戯曲でアビー座の新たな看板作者となりますが、劇場側との確執の末、ロンドンに活動拠点を移します。アイルランド、長いことあんまり作家が自由に書きやすいところじゃなくてですね…
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 オケイシーの代表作はダブリン三部作と言われる『狙撃兵の影』(The Shadow of a Gunman, 1923)、『ジュノーと孔雀』(Juno and the Paycock, 1924)、『鋤と星』(The Plough and the Stars, 1925)の他、
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 第一次世界大戦を描いた猛烈かつ実験的な反戦戯曲『銀杯』(The Silver Tassie, 1929)などです。『銀杯』は2018年に日本でも上演されました。
setagaya-pt.jp/performances/2…
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 ちなみに担当教員の個人的意見では『ジュノーと孔雀』は20世紀に書かれた英語の戯曲の中でも最も面白いもののひとつだと思うんですが、全然、日本で人気がありません。どこか上演してほしいです。
#イギリスの文学_20世紀前半の詩と演劇 それでは本日の授業はこれで終了いたします。履修登録者の学生の皆さんは授業ページのアンケート課題に必ず答えてください。来週は20世紀後半の詩と演劇です。主にベケットやシェイマス・ヒーニーの話をします。

• • •

Missing some Tweet in this thread? You can try to force a refresh
 

Keep Current with 2020年夏学期武蔵大学「イギリスの文学」授業用アカウント

2020年夏学期武蔵大学「イギリスの文学」授業用アカウント Profile picture

Stay in touch and get notified when new unrolls are available from this author!

Read all threads

This Thread may be Removed Anytime!

PDF

Twitter may remove this content at anytime! Save it as PDF for later use!

Try unrolling a thread yourself!

how to unroll video
  1. Follow @ThreadReaderApp to mention us!

  2. From a Twitter thread mention us with a keyword "unroll"
@threadreaderapp unroll

Practice here first or read more on our help page!

More from @PirateUni_HEL

12 Jun
#イギリスの文学7 友であり同胞である学生諸君、こんにちは。これから「イギリスの文学」第7回の授業を始めます。教科書は17頁、スライド資料は第7回を出してください。なお、本日の授業は『夏の夜の夢』をはじめとする私の他のクラスを受講した人は既に聞いた話と重なるところが多いかと思います。
#イギリスの文学7 今日はシェイクスピアについてです。まずはシェイクスピアの生い立ちですが、生没年は1564年-1616年で、「ひとごろし(1564)の話をいろいろ(1616)書いた人」と覚えます。ストラットフォード・アポン・エイヴォンにてジョン・シェイクスピアとメアリ・アーデンの息子として生まれます
#イギリスの文学7 お父さんのジョンは手袋屋で、カトリックだったかもなどと言われていますが詳しいことはわかっていません。誕生日ははっきりしませんが、洗礼の日などから推測して4/23(聖ジョージの日)に生まれたのではないかと言われています。
Read 69 tweets
5 Jun
#イギリスの文学6 友であり同胞である学生諸君、こんにちは。これから「イギリスの文学」第6回の授業を始めます。教科書は15頁、スライド資料は第6回を出してください。なお、本日から2回の授業は『夏の夜の夢』クラスを受講している人は既に聞いた話と重なるところが多いかと思います。
#イギリスの文学6 本日は英国ルネサンスと呼ばれることもある近世イングランドの文学についての解説です。まずは詩と演劇についてですが、この頃の英語のお芝居というのは大部分が詩、つまりリズムのある文で書かれていました。playwrightというのは新語で、劇作家のことも多くはpoetと呼んでいました
#イギリスの文学6 悲劇的な場面や女役の台詞、身分の高い人の台詞、長い台詞などは韻文で書かれていることが多く、喜劇的な台詞などは散文で書かれていることが多くなっています。韻文と散文の違いですが、韻文はリズムや韻があり、散文はそうでない文です。
Read 56 tweets
30 May
20時になりましたので、「イギリスの文学」4-5回目となる、グローブ座『冬物語』鑑賞会を始めようと思います。
プロダクションの情報はこちらです。
shakespearesglobe.com/watch/the-wint… 2018年に上演されたもので、ブランチ・マッキンタイア演出です。
#イギリスの文学冬物語
簡単に『冬物語』について説明します。これはシェイクスピア劇の中でもロマンス劇などと呼ばれるもので、悲劇か喜劇かトーンがわかりづらい、波乱に満ちた展開の後に大団円という感じの話です。 #イギリスの文学冬物語
#イギリスの文学冬物語 お話としては、前半がシチリア王リオンティーズの異常な嫉妬ゆえに不貞の罪に問われた王妃ハーマイオニの話、後半はその娘パーディタの貴種流離譚です。
Read 71 tweets
29 May
#イギリスの文学第3回 友であり同胞である学生諸君、こんにちは。今日はイギリス文学史の第3回です。履修登録者の皆さんは第3回のスライドを見るようにしてください。後半は教科書の使います。
#イギリスの文学第3回 本日は、まず「文学って何」という話をします。別に教員は文学論をしたいわけではなく、ここで大きな声で言いたいのは「文学=小説ではありません!!!」ということです。
#イギリスの文学第3回 少なくともヨーロッパの文芸においては、小説というのは比較的新しい文学形式です。文学には詩、演劇、小説、エッセイなどいろいろなものが含まれます。
Read 73 tweets
22 May
#イギリスの文学第2回 友であり同胞である学生諸君、お目を貸してください。私はあなた方に不可を出すためではなく、知識を身につけてもらうためにここに来たのです。
#イギリスの文学第2回 みなさんこんにちは。「イギリスの文学」の授業を始めます。今の発言を見てこの教員は大丈夫かと思った人も多いと思いますが、この授業が1学期終わるまでに今の発言が何の作品のパロディなのか、たぶんわかるようになっている…はずですので、最後まで授業に出て下さいね。
#イギリスの文学第2回 今日の授業では英文学史の内容に入る前に、英文学を読むのに必要なブリテン諸島の文化や歴史について解説をします。
Read 61 tweets

Did Thread Reader help you today?

Support us! We are indie developers!


This site is made by just two indie developers on a laptop doing marketing, support and development! Read more about the story.

Become a Premium Member ($3/month or $30/year) and get exclusive features!

Become Premium

Too expensive? Make a small donation by buying us coffee ($5) or help with server cost ($10)

Donate via Paypal Become our Patreon

Thank you for your support!

Follow Us on Twitter!