#Shax_nichigei_1109 こんにちは、お久しぶりです。これから日芸の「古典演劇研究II シェイクスピア」第7回「シェイクスピアの舞台とはどんなものか?」の授業を始めます。履修者の皆さんはスライドの第7回にあたるものを見てください。
#Shax_nichigei_1109 今日はざっくりとシェイクスピアの上演についての基本的な知識をおさえます。第一部は英語の台詞の韻律について、第二部は最近の上演にかかわるさまざまなトピックを簡単におさえます。
#Shax_nichigei_1109 まずプロローグとしてシェイクスピア劇を見る時の手がかりについてお話します。基本的に、シェイクスピア劇の主人公はひどくおしゃべりで自分が考えていることをいろいろ台詞で観客に伝えてくれますが、観客が一番知りたがっていることについてはストレートに教えてくれません。
#Shax_nichigei_1109 たとえば、ハムレットはなんですぐお父さんの殺人に復讐しないのでしょうか?『オセロー』のイアーゴーはなんであんなにオセローを憎んでいるのでしょうか?『ヴェニスの商人』のシャイロックはなんであんなにアントニオへの復讐に固執するのでしょうか?
#Shax_nichigei_1109 『アントニーとクレオパトラ』のクレオパトラは本当にアントニーを心から愛しているのでしょうか?『尺には尺を』のイザベラは公爵の求婚を受けたのでしょうか、受けなかったのでしょうか?これは全部はっきり描かれていません。ここに解釈の余地が生まれます。
#Shax_nichigei_1109 こういう問いは台本をしっかり分析していくとある程度答えは出てくるのですが、全員同じ答えに達するというようなものではありません。このため、演出でいろいろなことができます。
#Shax_nichigei_1109 そこがシェイクスピア劇の面白いところで、演出を変えるとがらりと違う芝居に見えます。著作権も切れてるし、勝手に変えても文句を言う相続人はいませんので、やりたい放題の演出ができます。だからシェイクスピアは人気があるとも言えます。
#Shax_nichigei_1109 まずは第1幕として、シェイクスピア劇の台詞の韻律について簡単にお話します。シェイクスピア劇の大部分は韻文、それもブランク・ヴァース(無韻詩)で書かれています。ブランク・ヴァースは押韻がなく、リズムがある詩文です。
#Shax_nichigei_1109 ブランク・ヴァースは1540年頃、サリー伯ヘンリー・ハワードが『アエネイス』英訳のために使用し、その後トマス・サックヴィル&トマス・ノートンが1589年頃に戯曲『ゴーボダック』(Goboduc)で使用しました。
#Shax_nichigei_1109 劇作家ではクリストファー・マーロウがこれを得意とし、ブランク・ヴァースによる芝居を発展させました。そしてもちろんシェイクスピアもブランク・ヴァースが大変、得意でした。基本的にこのへんの登場人物は、カッコいい台詞はほぼ韻文でしゃべってます。
#Shax_nichigei_1109 登場人物が詩で話す芝居なんて不自然だ、おかしい…と思いますか?新型コロナウイルスが流行って劇場が閉鎖されるまで、ブロードウェイで一番人気だった芝居は登場人物がラップする『ハミルトン』ですよ。
#Shax_nichigei_1109 シェイクスピア劇も、基本的にはカッコいいところはみんなラップみたいな感じでしゃべってると思ってください。あそこまでリズミカルじゃないかもしれませんけど。
#Shax_nichigei_1109 では英語のリズムって何だ…という話ですが、とりあえず英語の場合、基本的に1音節(syllable)にひとつの母音のまとまりが来ます。morningはmorn・ingで2音節、Shakespeareもいっぱい母音あるように見えますがShake・speareで2音節です。
#Shax_nichigei_1109 イヤなのかlittleとかで、これは1音節みたいに見えるのですがtleのところがなんか音節を作るのでlit・tleで2音節です。
#Shax_nichigei_1109 ちなみに英語で一番長い1音節の単語はstrengthsだと言われています。eしか母音がないので子音が8つありますが1音節です。
#Shax_nichigei_1109 'If music be the food of love, play on. 'は『十二夜』の台詞ですが、10音節です。
#Shax_nichigei_1109 これは弱強五歩格(Iambic pentameter)で書かれています。シェイクスピア他、ルネサンス期の芝居や詩の代表的なリズムです。基本的に弱い音節-強い音節の組み合わせが5回出てきて1行となります。つまり1行10音節です。
#Shax_nichigei_1109 A horse! a horse! my kingdom for a horse!「馬をくれ、王国をやる!」(『リチャード三世』の台詞)を弱強五歩格で読む場合、今から書く大文字のところを強く読んでください。a HORSE! a HORSE! my KINGdom FOR a HORSE!
#Shax_nichigei_1109 シェアド・ライン(Shared Line)といって韻文の1行を複数人で言うこともあります。次の例は『ハムレット』からのものです。
#Shax_nichigei_1109
HORATIO Do, if it will not stand.
BERNARDO 'Tis here!
HORATIO 'Tis here!
#Shax_nichigei_1109 これで1行10音節になるんですね。複数人の台詞でもあんまり間を置かずにリズミカルに読んでください。
#Shax_nichigei_1109 韻を踏むこともあります。とくに台詞によく出てくるのは二行連句(rhyming couplet)です。下は『夏の夜の夢』の台詞です。
Love looks not with the eyes, but with the MIND,
And therefore is wing’d Cupid painted BLIND;
Nor hath Love’s mind of any judgement TASTE:
Wings, and no eyes, figure unheedy HASTE:
And therefore is Love said to be a CHILD,
Because in choice he is so oft be GUIL'D
#Shax_nichigei_1109 大文字にしたところが2行ずつ韻を踏んでいます。こういうのはカッコいいところで使います。
#Shax_nichigei_1109 台詞にソネット(Sonnet, 十四行詩)が仕込まれていることもあります。ソネットというのは14行ひとまとまりの短い詩で、13世紀のイタリアで生まれ、英語でも作られるようになりました。
#Shax_nichigei_1109 ただしペトラルカ式ソネットと呼ばれるイタリアのやつと、英語のシェイクスピア式ソネットは韻を踏む位置が違います。英語のソネットは1行目と3行目、2行目と4行目、5行目と7行目、6行目と8行目、9行目と11行目、10行目と12行目、13行目と14行目が韻を踏みます。
#Shax_nichigei_1109 これ、abab cdcd efef ggというふうに韻を踏む、と書いたりしますね。
#Shax_nichigei_1109 フィリップ・シドニーの連作ソネット『アストロフェルとステラ』(1591)が有名で、シェイクスピアもソネットを書いています。通常、ソネットを捧げる恋人というのは金髪の美女が常套なのですが、シェイクスピアのソネットはこの限りではなく、男性と黒髪の女について書いてます。
#Shax_nichigei_1109 『ロミオとジュリエット』でロミオとジュリエットが出会うところでは、この2人の会話がソネット形式の押韻になってます。会った途端に愛の詩が生まれるわけです。リズムと韻で、お互いが一瞬で恋に落ちたことがわかるわけですね。
#Shax_nichigei_1109 また、シェイクスピア劇には独白がたくさんあるのですが、これはけっこう韻文で書かれています。ひとりで詩で語るんですね。これをどのように処理するかというのはわりと大変です。
#Shax_nichigei_1109 シェイクスピア劇の独白は直線的に進む芝居の時間の外側にあり、登場人物が考えていることを直接観客に教えてくれる機会です。このために、実際には前の場面で考えていることとかが後で独白で説明されるようなこともあります。映画だとボイスオーバーで処理するような台詞です。
#Shax_nichigei_1109 一番有名なのは'To be, or not to be, that is the question'「生きるべきか死ぬべきか、それが問題だ」でしょうが、『ハムレット』第3幕第1場のこの独白は破格で、1行が10音節ではありません。最後が弱い音節になっています。
#Shax_nichigei_1109 リズムの乱れは心の乱れです。これはハムレットの思考がざわついていることを暗示しています。それもあって、ここは役者によって微妙に読み方が違い、that is ...のところはthatを強く読む人とisを強く読む人がいたり、thatの前にかなりポーズを置く人がいたりもします。
#Shax_nichigei_1109 映画だとこういう独白は全部ボイスオーバーで、登場人物が考えたり歩いたりしているところに音だけかぶさったりするというような演出もあります。いろいろなことが試せます。
#Shax_nichigei_1109 では第2幕、シェイクスピア劇の上演についてにいきましょう。ここではいろいろ上演について知っておくといい知識を紹介します。
#Shax_nichigei_1109 まず、芝居はスターを見るもんだということを念頭に置いてください。近世の商業演劇では、お客は脚本家でも演出家でもなくスターを見に来ていました。今でもそうですよね?シェイクスピア劇はスターが出るための芝居です。
#Shax_nichigei_1109 シェイクスピアの時代の看板役者はリチャード・バーベッジでしたが、その後も舞台業界ではいろいろなシェイクスピア劇のスターが登場します。
#Shax_nichigei_1109 18世紀にはデイヴィッド・ギャリックという大スターが登場し、1769年に初めての近代的なシェイクスピア祭を主催するなど、シェイクスピア普及に大きく貢献しました。シェイクスピアを演じるギャリックをウィリアム・ホガースが描いた絵もあります。
commons.wikimedia.org/wiki/File:Will… Image
#Shax_nichigei_1109 この他にも、19世紀の舞台俳優で黒人男性としては初のシェイクスピア劇のスターとなり、オセロー役で有名だったアイラ・オルドリッジとか、マクベス夫人で有名な19世紀の女優エレン・テリーとか、いろいろなスターがいます。
#Shax_nichigei_1109 今でもイギリスのスターには、若い頃は舞台でシェイクスピア劇をやってたとかいう人がかなり多いです。エディ・レッドメインもベン・ウィショーもベネディクト・カンバーバッチもデイヴィッド・テナントもシェイクスピアやってますね。
#Shax_nichigei_1109 そしてシェイクスピア劇にも人気戯曲と不人気戯曲があります。『ハムレット』、『十二夜』、『夏の夜の夢』あたりはよく上演されています。一方『アテネのタイモン』、『ジョン王』、『二人の貴公子』、『エドワード三世』、『サー・トマス・モア』などはあまり上演されません。
#Shax_nichigei_1109 私もシェイクスピア劇のうち、『ジョン王』『エドワード三世』『サー・トマス・モア』はライヴの舞台で見たことがありません。
#Shax_nichigei_1109 一方、時代によって上演の人気が異なるものもあります。たとえば『オセロー』は今でも人気ありますけど、17世紀の後半、王政復古の時期にはとくにものすごい人気だったと考えられています。
#Shax_nichigei_1109 一方、『タイタス・アンドロニカス』はあまりにも残虐なので19世紀には人気がなかったのですが、今はかなり人気があり、よく上演されます。私も何度も舞台で見たことがあります。
#Shax_nichigei_1109 あと、地域によって上演の人気が異なるものもあります。『ヘンリー五世』はイギリスで第二次世界大戦の時期に人気で、その後一時期あまり上演されなくなり、ケネス・ブラナーがとりあげて以降またけっこう上演されるようになりました。一方で非英語圏では全然上演されません。
#Shax_nichigei_1109 フランスがボロ負けする内容なんでフランスとかであんまり上演されないのはまあわかるのですが、中国ではなんと記録にあるかぎりでは中国語によるプロの劇団の初演が2016年だったそうです。
#Shax_nichigei_1109 何が人気を博すかは政情やトレンド、技術的制約などに強く影響されるので、『ヘンリー五世』のようなイギリス人の帰属意識をくすぐる芝居は戦争の時などに上演されるし、ヴィクトリア朝では暴力的・性的な芝居が好まれませんでした。
#Shax_nichigei_1109 これは1960年代以降くらいに広がったトレンドですが、現在のシェイクスピア劇は、シェイクスピアのお芝居は遠い昔の物語ではなく、まさに自分たちの「同時代」の問題を扱っているという考えに基づいて上演されます。
#Shax_nichigei_1109 ポーランドの批評家ヤン・コットの『シェイクスピアはわれらの同時代人』(蜂谷昭雄、喜志哲雄訳白水社、1968)という本がありまして、これはそういう考え方を広めるひとつの原因になった本です。良い本ですのでオススメです。
#Shax_nichigei_1109 最近は現代人にもわかるように現在の政情やポップカルチャーなどに引きつけて上演することが多いです。たとえばこれは2012年、ロンドンのナショナル・シアタ-の『アテネのタイモン』ですが、ほぼ現代的で当時の経済状況が反映されています。
#Shax_nichigei_1109 シェイクスピアの時代の、どんな芝居でも当時の衣装でやっていたらしいので、これだけならばシェイクスピアの時代とたいして変わらないのですが、今は現在ではない別の時代に舞台を移し替えるものもあります。
#Shax_nichigei_1109 たとえばこれは2016年、オレゴン・シェイクスピア・フェスティバルの『十二夜』ですが、1930年代のハリウッドに舞台を移してやってます。オリヴィアが映画スター、オーシーノが監督という設定です。
#Shax_nichigei_1109 それではキャスティングの話にいきましょう。まずはキャスティングと人種の話です。最近の英語圏では、伝統的に白人が演じることになっている役に非白人をキャスティングすることがふつうに行われるようになっています。
#Shax_nichigei_1109 これはカラーブラインド・キャスティングなどと呼ばれていますが、この言葉じたいに議論があり、カラーコンシャス・キャスティングとかノントラディショナル・キャスティングと言われることもあります。
#Shax_nichigei_1109 思ったよりは昔からやってまして、1936年にオーソン・ウェルズがオールブラックキャストによる『ヴードゥー・マクベス』というのをやっています。これは凄い上演だったらしいのですが、映像は切れっ端しか残っておりません。これです。
#Shax_nichigei_1109 本格的なトレンドとしては、1950年代後半、ニューヨーク・シェイクスピア・フェスティヴァルにジョゼフ・パップが導入して、非白人の俳優をシェイクスピア劇に雇うのがどんどん盛んになっていきました。
#Shax_nichigei_1109 1991年から1995年にかけてチーク・バイ・ジョウルが上演したオールメールの『お気に召すまま』では黒人男性であるエイドリアン・レスターがヒロインのロザリンドを演じました。これは名演として名高いものです。
cheekbyjowl.com/productions/as…
#Shax_nichigei_1109 一方、非白人の役は今ではふつう非白人の役者が演じます。『オセロー』のタイトルロールは通常、非白人(黒人がほとんど)の役者がやります。最近はイアーゴーも非白人にするとか、いろいろキャスティングがありますが。
#Shax_nichigei_1109 これは伝統的に演劇界で不利な立場に置かれていた非白人の役者の雇用を守るためでもあり、また『オセロー』は人種差別が主題の芝居なのでそういうとこをちゃんと見せないといけないからというのももちろんあります。
#Shax_nichigei_1109 じゃあ白人俳優は全くオセローやらないのかというとそういうわけでもなく、 1997年の人種逆転版『オセロー』ではオセロー役を白人のパトリック・スチュワート、デズデモーナ役を黒人のパトリス・ジョンソンが演じ、他のふつうは白人がやる役も全部黒人俳優がやりました。
#Shax_nichigei_1109 人種とキャスティングに関しては日々、いろいろな試みが行われています。日本の舞台ではあまり馴染みがないことかもしれませんが、そろそろこういうことは日本でも考えねばならないはずだと思います。海外にルーツがある役者さんもどんどん増えてますし。
#Shax_nichigei_1109 キャスティングとジェンダーについては別の回でもっと詳しく話す予定なのですが、さわりだけ。劇団の事情でシェイクスピア劇には女役が少ないため、女優を起用する努力がなされている一方、シェイクスピアの時代の劇団の構成を考えたオールメール上演も行われています。
#Shax_nichigei_1109 ジェンダーとキャスティングについてはいろいろなやり方があります。まずはオールメール、オールフィメールなどSingle-sex Shakespeareと呼ばれるものがあります。
#Shax_nichigei_1109 役自体の性別を変更することもあります。たとえば『テンペスト』でミランダの父であるプロスペローをミランダの母プロスペラにして女優が演じるなどですね。
#Shax_nichigei_1109 役自体の性別は変更せず、設定と違う性別の俳優が演じることもあります。『ハムレット』で、主役のハムレットを王子という設定のまま女優が演じる、などですね。
#Shax_nichigei_1109 新型コロナウイルス流行で劇場が閉まる前は、英語圏ではトランスジェンダーやノンバイナリの役者をもっとシェイクスピアに起用しようということでいろいろな試みもありました。これは今後、劇場再開とともにまた進んでいくでしょう。
#Shax_nichigei_1109 キャスティングと障害の話にいきます。英語圏では障害のある役者を雇う動きは近年、非常に盛んになっています。台本に障害がある役だと明記されていなくても、車椅子にのっていたり、耳が聞こえなくて手話を使っていたり、低身長症だったりするような役者を実力重視で選んでます。
#Shax_nichigei_1109 たとえばロイヤル・シェイクスピア・カンパニー『じゃじゃ馬ならし』(2019)では、男女を入れ替え、車椅子を使っているエイミー・トリグがビオンデッラ役を演じました。下に予告があります。これは来日する予定が、感染症で公演がなくなりました…
#Shax_nichigei_1109 手話のみのシェイクスピア上演も実施されている他、手話と音声言語が併存するプロダクションもあります。この場合、字幕をつけることも多いです。ただ、手話をふんだんに使用する場合、視界を遮るものが少ないセットにする必要があるので、デザインやる人は気をつけてください。
#Shax_nichigei_1109 最近ではシェイクスピアをいろんな地域の民族文化に接続する上演が行われています。舞台設定を変更したり、形式を別の舞台芸術様式に移し替えたりします。よく知られたものとしてはインドの伝統的な古典歌舞劇であるカタカリで『リア王』を上演した『カタカリ版リア王』(1989)、
#Shax_nichigei_1109 呉興国が京劇風にした当代伝奇劇場『テンペスト』(2004)、蜷川幸雄演出で、歌舞伎スタイルにした『NINAGAWA十二夜』(2005)、イクバル・カーン演出で現代のデリーを舞台に全て南アジア系キャストでボリウッド映画風にしたロイヤル・シェイクスピア・カンパニー『から騒ぎ』(2012)
#Shax_nichigei_1109 などがあります。ただし、うまくいったと言えそうなやつはそう多くはありません。「何がやりたかったんですかねぇ」みたいになるものも結構多いです。
#Shax_nichigei_1109 セットデザインなどについてもけっこうトレンドの移り変わりがあります。シェイクスピア劇のセットはなにもない空間にするか、凝ったセットにするか、いっそゴミの山みたいなやつにすべきでしょうか?
#Shax_nichigei_1109 演出家のピーター・ブルックが『なにもない空間』(高橋康也、喜志哲雄訳、晶文社、1971)って本を書いてるのですが、ブルックはそういうセットで実際に1970年に『夏の夜の夢』を上演しました。
#Shax_nichigei_1109 これは白い箱のようなセットにぶらんこや竹馬などを使った演出で、一世を風靡しました。『夏の夜の夢』は夢がテーマなのもあってかなりセットが面白いものが多いです。
#Shax_nichigei_1109 ロバート・カーセン演出『夏の夜の夢』(1991)は、これはベンジャミン・ブリテンのオペラ版のほうなんですけど、ベッドがコンセプトです。何度も再演されてます。
#Shax_nichigei_1109 ジュリー・テイモア『夏の夜の夢』(2014)は映像化されていますが、森は竹のような棒で表現、布などをふんだんに使ったセットです。
#Shax_nichigei_1109 ニコラス・ハイトナー『夏の夜の夢』(2019)はイマーシヴシアターってやつで、客席と舞台がはっきり分かれてません。
#Shax_nichigei_1109 では特殊効果の話にいきましょう。シェイクスピアの時代はセット替えなどはできなかったのですがが、奈落からせりを使って上がってきたり、フライングマシンを使って飛んで入ったりすることはできたようです。
#Shax_nichigei_1109 18世紀には嵐の雷鳴などの効果を出すためのサンダーランとかサンダーシートなどが導入されました。サンダーランはブリストルオールドヴィックに残ってますが、こういうやつです。
m.facebook.com/watch/?v=92658…
#Shax_nichigei_1109 録音・録画の誕生とともに録音した音を効果音として使用したり、映像を舞台で流したりできるようになりました。21世紀にはプロジェクションが登場し、最近のお金のかかった舞台ではかなりプロジェクションが使用されています。
#Shax_nichigei_1109 ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー『テンペスト』(2016)とか、すごいプロジェクション技術を使ってますので、予告を見てみてください。
#Shax_nichigei_1109 暴力描写の話にいきます。ヴィクトリア朝では近世イングランド演劇の強烈な暴力描写はあまり好まれず、『タイタス・アンドロニカス』などはあまり上演されなかったのですが。20世紀~21世紀の舞台ではかなり暴力的な演出も増えるようになりました。
#Shax_nichigei_1109 イギリスなんかの上演だと、『マクベス』の子供殺しの場面など、かなり陰惨にやることも多いです。ちなみに私、舞台を見るようになる前は残虐ホラー映画とかけっこう見ていたのですが、舞台を見始めてからあんまり見なくなりました。
#Shax_nichigei_1109 というのも、ニセものだとわかっていても舞台で目の前で暴力が演じられると映画よりもはるかに生々しいので、なんかもう舞台だけで暴力はお腹いっぱいになってしまいまして…個人的な話ですが。舞台にはそれくらいの力があるっていうことです。
#Shax_nichigei_1109 あくまでも教員が観測した漠然とした傾向ですが、北米よりはイギリス、イギリスよりも大陸ヨーロッパの上演のほうがおそらく暴力描写は過激で、ものすごい量の血糊が使われたり、舞台上で子どもが惨殺されるなどのかなりストレートな暴力描写が行われることもあります。
#Shax_nichigei_1109 個人的経験ですが、カナダのストラトフォードシェイクスピア祭に行った時、『チェンジリング』の上演がすごい血まみれだって既に見た人たちが言っていたので楽しみに見に行ったら、私の基準ではあんまり血が出てなくて拍子抜けしたことがありました。
#Shax_nichigei_1109 なお、剣戟シーンはかなり危険なので、オレゴン・シェイクスピア・フェスティヴァルでは必ず上演の前に剣戟とダンスの場面は毎回リハーサルを実施するそうです。皆さんも舞台で戦うシーンではくれぐれも気をつけてください。ケガなどしないようにね。
#Shax_nichigei_1109 では、世界のどこでシェイクスピアをやっているのかという話ですが、まずはまあイギリスですね。シェイクスピアの故郷であるストラトフォード=アポン=エイヴォンのロイヤル・シェイクスピア・カンパニー、ロンドンならグローブ、ナショナル・シアター、ウェスト・エンドなど。
#Shax_nichigei_1109 北米はまあニューヨークのブロードウェイですが、北米は地方のシェイクスピア祭が盛んで、オレゴン・シェイクスピア・フェスティバル(オレゴン州アッシュランド)やストラトフォード・フェスティバル(カナダ、オンタリオ州ストラトフォード)はすごい規模です。
#Shax_nichigei_1109 この他、東欧やロシア、ドイツ、日本などでもけっこう上演されています。
#Shax_nichigei_1109 最後にエピローグとして、シェイクスピア劇を見る時のポイントについていくつか演目ごとにご紹介します。
#Shax_nichigei_1109 たとえば『オセロー』ですが、最後にオセローが武装解除されるのに最後、剣を出して自殺します。この剣はいったいどこから出てくるのか、演出ではどうにかしないといけないので、いろいろなやり方があります。思いもよらないところから出てきたりもします。
#Shax_nichigei_1109 あと、『ロミオとジュリエット』でジュリエットがのんだ仮死状態になる薬の瓶はどこに行くのか?というのも問題になります。薬瓶が見つかったらまずいはずなので、これもなんとかして解決しないといけません。
#Shax_nichigei_1109 それから、『マクベス』では実際にバンクォーの亡霊を舞台にあげるか、あげないか?というのも問題になります。マクベスにしか見えていない亡霊を実際に出すかどうかという話ですね。
#Shax_nichigei_1109 それから、『十二夜』最後の場面でサー・トウビーがサー・アンドルーに悪態をつくところがあります。ここですが、かなり深刻な場面として演出する場合と、「また酔っ払いが…」みたいに面白おかしくする場合があります。どっちがいいでしょう?
#Shax_nichigei_1109 演目ごとに、演出家によって演出方法が分かれるポイントがあるので、そこに注意しながら見ると面白いこともあります。将来演出をしたいと思っている人はこのへんの台本に取り組む時は考えてみてくださいね。
#Shax_nichigei_1109 それでは本日の授業はこれで終わります。履修者の皆さんはグーグルクラスルームの課題をやってくださいね。それではまた来週。

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14 Dec
#Shax_nichigei_1207 こんにちは。これから「古典演劇研究II シェイクスピア」第11回の授業を始めます。今日はジェンダーとセクシュアリティのお話をします。日芸の登録者の皆さんはスライドを準備してください。
#Shax_nichigei_1207 プロローグとして女役の話をちょっとしましょう。どうして『ロミオとジュリエット』のジュリエットは14歳にもなっていないのでしょうか?
#Shax_nichigei_1207 ここで「昔の人は早く結婚したから」というのは答えになりません。シェイクスピアの時代の平均的な初婚年齢は20代半ばくらいです。上流階級だと生活の心配がなく、政略結婚もあるので10代で結婚ということもできますが、一般人は14歳とかで結婚しません。
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7 Dec
#Shax_nichigei_1207 こんにちは。これから「古典演劇研究II シェイクスピア」の授業を始めます。本日はシェイクスピア映画についてです。日芸の登録履修者の人はスライドを出してください。
#Shax_nichigei_1207 シェイクスピア映画については1コマで概説するのはちょっと難しいので、大変ざっくり説明します。今回だけではあまりカバーできていない分野ももちろんありますが、とりあえずシェイクスピア映画を見るための手がかりと思って聞いてください。
#Shax_nichigei_1207 シェイクスピアを原作とする映画はサイレント映画の時代から作られています。1944年にローレンス・オリヴィエが作った『ヘンリィ五世』がヒット作としては画期的でした。
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30 Nov
#Shax_nichigei_1130 こんにちは。これから「古典演劇研究II シェイクスピア」の授業を始めます。今日は「印刷と出版」です。シェイクスピアの時代の戯曲の刊行についてお話します。履修登録者の皆さんは授業資料を用意してください。
#Shax_nichigei_1130 まず、小説と戯曲の違いについてお話します。小説はそれ自体で完結しているところがありますが、戯曲は読んで楽しめるだけではなく、上演のための設計図です。読みながら上演方法を想像したほうが楽しめる場合もあります。
#Shax_nichigei_1130 一方で戯曲は初演時の物理的な状況(役者の数や予算、セットの都合)などに左右される場合も多いです。また、上演はされたものの、本として印刷はされなかった芝居もあります。今でもそういう消えていく戯曲はたくさんありますね。
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16 Nov
#Shax_nichigei_1116 こんにちは。これから「古典演劇研究II シェイクスピア」の授業を始めます。今日は「シェイクスピア劇とジャンル」です。いろいろなジャンルについてお話したいと思いますので、履修登録者の皆さんは授業資料を用意してください。
#Shax_nichigei_1116 まずは質問です。世界最古の現存するミステリ戯曲は何でしょう?
#Shax_nichigei_1116 答えはソフォクレス『オイディプス王』(おそらく紀元前430年前後)です。このお芝居では(以下、犯人ネタバレあります!)、オイディプス王が自分が父を殺し母と結婚した犯人であることを知ります。
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26 Oct
#Shax_nichigei_1026 こんにちは。「古典演劇研究II:シェイクスピア」の授業は先週はビデオを見る予習セッションでしたが、本日はツイッター講義に戻ります。第6回「近世イングランド演劇の流れ」ということで、中世末期から内戦までの演劇の流れをざっくり確認します。
#Shax_nichigei_1026 日芸の履修者の皆さんはスライドを用意してください。まずはシェイクスピアがやってくる近世の前にある、中世ヨーロッパの演劇について簡単に説明します。中世劇は古代ローマ・ギリシアの演劇とも、近代演劇ともかなり違い、キリスト教の影響が濃厚です。
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12 Oct
#Shax_nichigei_1012 こんにちは。これから日芸のシェイクスピア講義第4回を始めます。今日は「劇場・劇団・役者」をテーマに簡単に近世ロンドンの演劇をする環境についてお話します。履修者の皆さんはスライドを見てください。
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