昨晩 #NHK総合 で放送された #NHK #バリバラ「Black Lives Matter、そして日本は」。この異例の総合チャンネルでの再放送は、@BayeMcneil 氏をはじめとするNHKの有志の方々のたゆまぬ努力の結果実現した貴重な学びの機会だった。以下、番組を時系列で辿りながらコメントする。
#BlackLivesMatter
#BlackLivesMatter
まず、冒頭で大阪在住アーティストの日系ブラックである #菅原アリース 氏が挙げた概念"microaggression"。「無意識の差別を積み重ねること」を表す名詞であるが、microは日本人でも馴染みがある「小さい、極小」という意味。ここでは「些細な」の意味で捉えられるが、ではaggressionはどうか。 
aggressionは一般的に訳すと「攻撃」を意味するが、その第1定義は「とくに支配、隷従させる場合に行使される強制的な行動や手続き（不意な攻撃等）」となる。
日本では第2の定義で歴史上の出来事を語る時に使われることが多い。「国家による別の国家が保有する領土に対する侵害行為」＝”侵略”として。
日本では第2の定義で歴史上の出来事を語る時に使われることが多い。「国家による別の国家が保有する領土に対する侵害行為」＝”侵略”として。
このaggressionの第2定義の概念は実は第1定義にも当てはまる。つまり「侵害行為」ということである。microaggressionは「小さな言葉の攻撃の積み重ねにより相手の尊厳を侵害する差別的言動行為」を意味する。番組が平易に説明した内容よりずっと深刻な差別扇動表現＝ #ヘイトスピーチ なのである。
日系ブラックの #副島淳 氏は最初の疑問『日本に黒人差別はないので #BlackLivesMatter は関係ない』を否定「やっぱりあると思う」と言い切る。だが幼少期に初めて接した時は差別だと感じたが大人になった自分自身は「それを差別だとは全く思っていない」とも同時に言い切る。ここで繰り返された言葉。
『何気ない』──番組が提示したmicroaggressionの意味にもこの言葉が使われている。肌の色、髪の質、こういった本人自身にはどうしようもできない身体的特徴を”小さな言葉”で何気なく揶揄する、からかうことにより相手には深い傷として蓄積される。笑って流せる行為ではなく、立派な人格攻撃である。
この『何気ない』という言葉には「無意識のものである」ことが含意されているが、無意識であっても個人の尊厳を侵害する差別扇動行為＝microaggression＝ヘイトスピーチなのであると日本人は自覚すべきだろう。日本人がツリ目などの特徴で小馬鹿にされるのを『差別』と感じるのと同じことであると。
この日系ブラック女性のユナイス氏が『小さいときからずっとずっと思っていた』という「下に扱われる思い」──これもmicroaggressionによる蓄積とメディアが表現する黒人象によって生じた劣等感がなせること。『何気ない』という言葉でこの国にもれっきとした黒人差別が存在することは否定できない。
ユナイスさんの母親の恵子さんは、ナイジェリア人男性との結婚を反対する両親に勘当され（いまは関係は良好）肌身で差別を感じてきた。「人ごとじゃない」と娘の、黒人の血を受け継ぐ人がいるから、『終わらせなあかん』と差別を終わらせるため大阪の #BlackLivesMatter デモに行ったと言い切る。
コロナ下で #BlackLivesMatter デモに行った人たちを批判する者は、参加者が十分にコロナ対枠を行った上で行っていること、そして『終わらせないかん』とアメリカで起きていることのその根幹が「自分ごと」であると感じるからこそ参加した人がいることに思いを馳せ、その事情に共感してほしいと思う。
最近、相互フォローになった @tsukaniki85 さんが自ら日本在住の黒人男性の通訳を行った経験と、自らが在日外国として経験したことから日本に実在する差別を訴える。こういう当事者たちの声を媒介する人たちの声にも耳を傾けてほしい。日本にもsystemic racismは存在すると。
Systemic racism（構造的人種差別）とは何か。以前指摘noteで説明したとおり「経済、社会又は政治的に蔓延する人種差別」である。一方でsystematic racism（制度的人種差別）とは何か。これを #管原アリース さんが『5分でわかるアフリカ系アメリカ人の歴史』で説明する。
www6.nhk.or.jp/baribara/lineu…
www6.nhk.or.jp/baribara/lineu…
番組はこのsystemic racismをまた平易な言葉で表そうとするが、個人が社会生活の中で感じる構造的人種差別と組織が体系的に行うそれは違う。副島淳氏は就職の面接で黒人であることを理由に落とされたことを例に挙げるが、面接官個人ではなく方針として行った場合、これが組織的な構造的差別である。
#管原アリース 氏はここで具体例として黒人が警察官に射殺される割合が白人の2.5倍であること（左）そして麻薬犯罪で黒人が収監される割合は白人の6.5倍であること（右）を示す。メディアが作る黒人のイメージが原因で社会全般に黒人への差別が蔓延する。これが日本にも存在する構造的人種差別。
アリースさんの紙芝居説明の中で、その複雑さからか省かれたのが合衆国憲法修正第13条の説明。現代に繋がるアメリカの #人種主義に基づく制度的差別 （systematic racism）は、この憲法の条文改悪を期に始まっている。勿論、本来は改悪ではなかった。だが結果的に悪用された。
ここから先は、残念ながら毎度のことだがNHKの字幕の拙さの指摘になる。 @BayeMcneil さんが語る重要なメッセージの節々にその拙さが現れている。たとえば冒頭のこの箇所。マクニール氏は端的に"We believe that black lives DO matter"と言い切っている。私たちは黒人の命は大切だと主張していると。
続いてこの箇所。マクニール氏はこう言っている。"And we are even more committed than Derek to ensuring that our lives matter all over the world."（私たちはショーヴィンよりも強い信念を持って、私たち（黒人）の命が世界中のどこでも大切にされるよう訴えている）。まったく意味が異なる。
そして番組の終わりの方。ブラックフェイスや暴力的な黒人の描写とこれに便乗した日本のショービジネスにおあり方の問題について語られたと後で、マクニール氏がこう語る。narrativeの訳もそうだが、最後の「目をそらしちゃいけない」というのが全く違う。そんな生易しい表現ではない。
#バリバラ でマクニール氏はこう語った。1/4
"There's a narrative out of Japan. And that narrative is, 'Japan is a racism free country'."
拙訳「日本では”日本は人種差別とは無縁の国である”という言説がまかり通っている」
"There's a narrative out of Japan. And that narrative is, 'Japan is a racism free country'."
拙訳「日本では”日本は人種差別とは無縁の国である”という言説がまかり通っている」
#バリバラ でマクニール氏はこう語った。2/4
"This is a narrative that many Japanese people would repeat."
拙訳「多くの日本人が繰り返してきた言説だ」
"This is a narrative that many Japanese people would repeat."
拙訳「多くの日本人が繰り返してきた言説だ」
#バリバラ でマクニール氏はこう語った。3/4
"And that's a narrative that's set out to the world by the media "
拙訳「これはメディアが世界に広げてきた言説によるものだ」
"And that's a narrative that's set out to the world by the media "
拙訳「これはメディアが世界に広げてきた言説によるものだ」
#バリバラ でマクニール氏はこう語った。4/4
"There IS racism in Japan. That narrative needs to be changed. "
拙訳「人種差別は日本に存在する。いまの言説を変えなければならない」
"There IS racism in Japan. That narrative needs to be changed. "
拙訳「人種差別は日本に存在する。いまの言説を変えなければならない」
NHKがあくまで平易な言葉でマクニール氏の言葉を視聴者に伝えようとしたその意図はわかる。だがこれは #オザケン さんの翻訳編集した記事についてもマクニール氏に伝えたことだが、"this does not do justice to his important message”（これでは折角の彼の重要なメッセージが十分伝わらない）。
「思い込み」と「言説」には大きな隔たりがある。ただ”思い込まされる”ことと、それが”通説となって社会でまかり通っている”ことは違う。思い込みは個人の過失かもしれないが、言説はそう広めた個人個人にも問題がある。「日本に人種差別が存在しない」という言説を、思い込みにされてはたまらない。
全体的によく構成され、思慮深い作りの番組であったとは思う。過去の過ちへの言及もあった。だが翻訳者としては、マクニール氏の字幕訳はいただけなかった。あれではマクニール氏が主張したことの意味が半減してしまう。よい番組であっただけにそこはひじょうに残念に思うし、本人は知るべきだろう。
以上が私が個人的に番組を観て感じとったことだ。何度も繰り返して観て、この視聴記録をほぼリアルタイムで書き上げた。再再放送があるかは不明なので、未視聴の方はこの公式ブログを参照すればより細かく番組の内容を把握できる。一読をおすすめする。(了)
www6.nhk.or.jp/baribara/lineu…
www6.nhk.or.jp/baribara/lineu…
@threadreaderapp unroll my comment pls.
巻末付録①
「字幕訳にすると事情が違ってくる」
という指摘があると思うので、番組終わりのコメントの字幕訳も。
字幕訳1/4
字幕訳2/4
字幕訳3/4
字幕訳4/4
「字幕訳にすると事情が違ってくる」
という指摘があると思うので、番組終わりのコメントの字幕訳も。
字幕訳1/4
字幕訳2/4
字幕訳3/4
字幕訳4/4
巻末付録②
「字幕訳にすると事情が違ってくる」
という指摘があると思うので、番組冒頭のコメントの字幕訳もあげる。
「字幕訳にすると事情が違ってくる」
という指摘があると思うので、番組冒頭のコメントの字幕訳もあげる。
