「チコちゃん」去年1月31日放送「なぜお肉屋さんでコロッケを売っている?」

答え:洋食のコックさんがお肉屋さんに転職したから

チョウシ屋という店の創業者がポテトコロッケを発明し、昭和2年に日本初のコロッケを売る肉屋を開店したという話。

この話、全て嘘です。

チコちゃんに叱られる.com/8779.html
嘘その1

東京では大正時代から肉屋がコロッケを揚げ始めました。

大正12年の関東大震災後には、肉屋でコロッケを揚げる習慣が広がります。

昭和2年創業のチョウシ屋は、他の肉屋の習慣に追随したにすぎません。
嘘その2

ポテトコロッケはチョウシ屋の創業者が発明したものではありません。

もともとはフランス/イギリスの伝統料理。

現存する日本最古の西洋料理書にも登場する、日本では明治時代からおなじみの料理。
嘘その3

西洋料理店ではポテトコロッケを出していなかったというチョウシ屋の話は嘘。

大正時代には安洋食屋でポテトコロッケが出されていました。
まず嘘その1について。

夏目漱石の息子、夏目伸六は明治41年東京の早稲田南町生まれ。

彼が小学生の頃、つまり大正時代には肉屋がコロッケを揚げていました。
”ところで、当時、このN達が通って居た早稲田小学校の前あたりに、小さな肉屋が開店して、夕方になると、店先で、即製のコロッケやカツレツを、ジュージュー音を立ててあげて居た。”
”今でこそ、何処の肉屋でもやって居ることだけれど、その頃は、まだまだこれが珍らしい時代であって、夕飯時ともなると、付近の内儀さん連が集って来て、いつも店頭に列をつくって居た”(『続 父・漱石とその周辺』)
この早稲田小学校に通っていたNという小学生ですが、夏目伸六の記憶によると、後に文芸春秋編集長となる鷲尾洋三の同級生。

鷲尾洋三は夏目伸六と同じ明治41年生まれですから、早稲田の肉屋がコロッケを揚げ始めたのは大正時代から。
『串かつの戦前史』では、この他にも大正時代の肉屋がコロッケを揚げていた事例を取り上げ、なぜ大正時代に肉屋がコロッケを揚げはじめたのか、その理由について考察しています。

note.com/ksk18681912/n/…
『古老がつづる下谷・浅草の明治、大正、昭和2』には、明治43-44年生まれの三人の女性の思い出話が掲載されています

彼女たちが女学校1、2年の頃、つまり大正時代には谷中にコロッケ屋ができて、そこでコロッケを買っていたそうです

コロッケ専門店らしきものも、大正時代にはできたのです
早稲田の肉屋のコロッケがポテトコロッケであったか否かはわかりませんが、関東大震災後には、肉屋や惣菜屋がポテトコロッケを揚げる習慣が東京中に広がっていきます。

昭和2年創業のチョウシ屋は、そのような多くの肉屋の一つに過ぎなかったのです。
明日は、関東大震災後の肉屋におけるポテトコロッケの普及について。

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13 Jun
”関東大震災までは、全部いっかんづけです。二かんづけなんていうのは戦争たけなわになってからですね。(中略)そうなると、どの店も二個とか三個とかまとめて出すようになってきたんです。”(『面談たべもの誌』 石毛直道)
吉野寿司三代目吉野昇雄によると、二かんづけ(二個セット)が流行りだしたのは昭和12,3年、日中戦争の頃からだといいます。

(もっとも吉野昇雄は、『鮓・鮨・すし―すしの事典』においては、二貫漬けが流行ったのは戦後からと主張しています)
日比野光敏は『すしの事典』において二個セットとなった理由を複数あげていますが、その一つに、戦争原因説があります。

”次に、戦中戦後の食糧難に起源を求める説。”
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12 Jun
小説『小僧の神様』のモデルともなった幸寿司の杉山宗吉は、大正7,8年ごろ、それまで7個ずつ出していた寿司を、量を減らして2個ずつ出す方式に改めます。

”一個では少なく、三個では多いと考えたから”がその理由ですが、もう一つ理由がありました。

”勘定もしやすく、また手間もはぶけ”るから。 Image
2つ目の理由については説明が必要でしょう。

杉山宗吉の発言の意味は、1個ずつ出すよりも、2個ずつ出したほうが勘定が楽で手間も省けるというものです。

手間についてはわかると思いますが、勘定については寿司屋独特の習慣を知らないと意味が通じないと思います。
青山大寿司二代目、明治43年生まれの大前錦次郎は次のように述べます。

”昔から巷間に、すし屋はメシ粒で勘定しているのだと伝えられている。それはうそっぱちで、そんなことをしているすし屋は一軒もない。みな頭の中で暗算しているのである(『ザ・すし』)。” Image
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4 May
明治時代初期に「西洋料理」として日本に流入したイギリス料理。

イギリスにおいて米を主食とする料理といえばカレー。

カレーはインド発祥なので、スパイスとアブラと塩っけでご飯を食べさせます。
しばらくすると日本人はイギリス料理に「旨味」があることに気づき、これをオカズとしてご飯を食べるようになります。

真っ先にご飯の友となったのが、洋食屋台のシンプルシチュー(これには旨味はありません)と、hashed beef。

hashed beefをご飯にかけた和風西洋料理が、ハヤシライスです。
私がおさえている最古のハヤシライス事例は、作家の久保田万太郎が食べたという事例。

明治30年代後半の浅草で、中学生の久保田万太郎は小遣いをはたいてハヤシライスを食べていました。
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3 May
シチューというのは英語。その名の通り、イギリス発祥の料理です(フランスではラグーというはず)。

イギリスにおける代表的シチューといえば、アイリッシュ・シチュー

1861年に出版され大ベストセラーとなったThe Book of Household Managementのirish stewレシピを見てみましょう。
羊肉とじゃがいもと玉ねぎを、塩と胡椒と水だけで煮る。

実にシンプルなシチューです。

最近のアイリッシュ・シチューは野菜やハーブをゴテゴテ入れたりビーフストックを入れて茶色くしていますが、本来のアイリッシュ・シチューは水と塩だけのシンプルなシチュー。
bbcのこのレシピなどは、現代風にアレンジしたアイリッシュ・シチューですね。

bbc.co.uk/food/recipes/i…

昔のアイリッシュ・シチューは塩だけで煮ますから、茶色ではなくやや濁った透明な色。
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2 May
”「ザ・シチュー(シチューとしか呼びようのない料理)」”

”本当においしいのでこれ以外のもの一切入れちゃだめ!”

あーこのシチュー食べたことありますわ、三十数年前の新世界で。
新世界名物あづまのシチューうどんのシチューがまさにイナダさんのシチューなんです(ただし牛肉)。

写真は玉置標本さんのレポートから。
bit.ly/2SgviaB Image
三十数年前の新世界は、観光客も女性客もいない「変なクリーチャーが蠢くスター・ウォーズの酒場」みたいなところでしたが、それだけに印象が強かったです。

そこで食べたのが、この水だけで作ったようなシチューうどんと串かつでした。
Read 10 tweets
5 Jul 18
さて、何度か引用している映画「風立ちぬ」の一場面、主人公たちが関東大震災直後の縄のれんで、どんぶり飯をかきこんでいる場面です。

江戸時代には普及していなかった大きなどんぶりは、この一場面のごとく、大正時代には確実に存在していました。
大正時代に米騒動をきっかけにして生まれた簡易食堂で提供されていたご飯は、1合5勺の「丼飯」でした。
bit.ly/2IUFdIv

これは吉野家のどんぶり山盛りに相当します。つまり、「風立ちぬ」のような、吉野家なみの大きさのどんぶりが、大正時代には存在していたのです。
われわれの見慣れたこの大きなどんぶりは、江戸時代には普及していなかった、というのが今までの話でした。

それでは、明治時代のいつごろ普及したのでしょうか?
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