, 48 tweets, 14 min read Read on Twitter
#三月ユリシーズノート
U.1 5/10
pp.19-21

「マーター・リッチモンド(病院)」の「解剖室で臓物の細切れ」云々の憎まれ口で、マリガンがどうやら病院勤めとわかる。

臓物は第4挿話の臓物と響く。
それよりも、読書会で「畜生(beastly)」が、スティーヴンにとっては文字通り「畜生のように」の意味で、マリガンにはたんに「ひどい」という程度というすれ違いがあるのでしょう、というコメント。

なるほど。スティーヴンの怒りとマリガンの冷淡さが「畜生』で交錯する。

#三月ユリシーズノート
「逆に注入されている耶蘇会の血」とマリガンが云うに至って、やはりスティーヴンが『肖像』でカトリックを「棄教」したことを知っているとわかる。(『「心とは何か」を学ぶこと』参照w)

こういうところ、善し悪しではなくやはり読んだ論文などには影響されるのであります。

#三月ユリシーズノート
はい、素人のこだわり解釈コーナーw

スティーヴンの母が病院でとちくるって、医者を「ピーター・ティーズル様(sir Peter Teazle)」と勘違いし「キルトの掛け布団のキンポウゲ(buttercup)をむしり取る」ときたが、さあ、「sir Peter Teazle」とは何か!?

#三月ユリシーズノート
鼎訳脚注には、ナンチャラいう18世紀のダブリン出身劇作家の登場人物とあるが、本当? スティーヴンの母は、そんな錯乱状態で100年以上も前の作品の脇役を想起する?

#三月ユリシーズノート
それよりは、sir Peter Teazle という18世紀のダービー馬を思い出す方がうなづけないか? 確かに彼女が直にレースをみたはずはないのだけど、buttercup にはキンポウゲの他にその形から「馬の足形」という意味もあるではないですか。

ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5…

#三月ユリシーズノート
医者をダービー馬と見間違えたスティーヴンの母は、乗馬の気分でキルトの鞍(掛け布団)の buttercup を毟るわけですよ。その方が彼女の錯乱をよりリアルに表現できていると思うが。

#三月ユリシーズノート
イェイツ『ファーガスと行くのは誰か』から、郵便船の第1挿話と第4挿話の関係はこちらに書いたです。



ファーガスの歌に挟まれた、母親の死の床と「小僧っこなれど、おいらはどろんと、姿を消せるぞ」などの関係は次回ノート。

オマケは郵便船と猫w

#三月ユリシーズノート
#三月ユリシーズノート
U.1 6/10
p.21-23
まだ、マーテロウ塔の屋上じゃあないですか…。

「ファーガスと行くのは誰か?」

まず、全文。
#三月ユリシーズノート

Who will go drive with Fergus now, 
And pierce the deep wood's woven shade, 
And dance upon the level shore?
Young man, lift up your russet brow, 
And lift your tender eyelids, maid, 
And brood on hopes and fear no more.
And no more turn aside and brood
Upon love's bitter mystery;
For Fergus rules the brazen cars, 
And rules the shadows of the wood, 
And the white breast of the dim sea
And all dishevelled wandering stars.

#三月ユリシーズノート
#三月ユリシーズノート

第1挿話でマリガンが胴声で引用するのが下記部分。

And no more turn aside and brood
Upon love's bitter mystery;
For Fergus rules the brazen cars, 

この後はユリシーズでは端折られてるが、スティーヴンはその書かれてない三行を、
森の影白き胸などひきずって内的独白。で、母親の死の床でまさにこのファーガスの歌を弾き歌ったらしく、a great sweet mother が、眼下に広がる海=緑色の胆汁の器によって、愛の苦い神秘(love's bitter mystery)に変わってゆく。

#三月ユリシーズノート
(読書会で小林さんが漏らした「『a great sweet mother』が『大いなる慈母』では sweet がなくなる」という不満はここですよね)

#三月ユリシーズノート
「今はどこに?」

母自身の思い出の品が列記され、それらが「今はどこに?」と問うていると思わせて、快傑ターコウの歌、

小僧っこなれど
おいらはどろんと
姿を消せるぞ

で、小僧っこスティーヴンは(『肖像』最後で)母の前からどろんと姿を消したことを連想してしまう。

#三月ユリシーズノート
そして、だめ押しのファーガスの歌。

もはや顔をそむけて思い乱れるなかれ(And no more turn aside and brood)

イェィツの原詩のこの前段は、

Young man, lift up your russet brow, 
And lift your tender eyelids, maid, 
And brood on hopes and fear no more. 

#三月ユリシーズノート
と、恐れを捨て希望をもって顔を上げよというメッセージなのに、第1挿話では母への祈りのように「(死によって)顔をそむけて思い乱れず(冥福を)」というダブルミーニングになっていそう。

#三月ユリシーズノート
そうして「自然の記憶の中におもちゃといっしょにしまい込まれ」た母の「記憶のかずかず」は「思い乱れる脳裏を攻め立て」、スティーヴンの記憶の中で母は蚤(虱)を潰して血塗れの親指で生死の境をさ迷う記憶の亡霊と化し Ghoul! と襲いかかるのだ。危うしスティーヴン!

#三月ユリシーズノート
そこへ颯爽と救いに現れたのは誰あろう、われらがバック・マリガン!

和モーゼ・耶蘇余所しく・おれがために折れ、破れて我らがために、はおいておいてw

school kip が「稚児宿」で、このあと頻出する kip を色宿と訳すが、せいぜい安宿くらいの意味ではないかしらん。

#三月ユリシーズノート
p.25
戴冠式の歌は、coronation day が給料日のことでもあるそうで、マリガンの他人の給料を当て込んだはしゃぎようがかわいい。(簒奪者め)

また、ここでも金勘定。
スティーヴンの給料が4ポンド=80シリング。
ミリーのフォトガールの週給が12シリング6ペンス。
薄給。

#三月ユリシーズノート
かつ、マリガンは「いくら出る? 四枚か? 一枚貸せよ」ときた。かわいい。(簒奪者め)

で、『ダブリナーズ』の『出会い』で、ひとり6ペンスの4人分を徴収し、来なかった一人分を罰金にしたのを思い出し、うーん、ジョイスはとにかく四分の一を取り上げるんだなあ、とw

#三月ユリシーズノート
ありゃ、変なツイートの繋がりになってしまいました。

本筋のツイートの続きはこちらから。



#三月ユリシーズノート
イェイツのファーガスの歌について、読書会参加のtk(@wiesenau)さんが、詳しく解説されてます。

#三月ユリシーズノート
U.1 7/10
p.25
やっとマーテロウ塔の中へ。

スティーヴン、髭剃り器を「クロンゴウズ(学校)で舟形の香入れを運んだっけ」と丸谷文庫『肖像』p.78 を「あの頃とは違うが同じ自分」と思い出す。入れ物の連想連鎖(石鹸泡、胆汁、香)
第4挿話との関係

「鍵は持ってる?」スティーヴンは持ってるが、ブルームは忘れる。
マーテロウ塔の鍵は、二重扉で内鍵はバカでかいそうです。
スティーヴンが持って出てマリガンに簒奪されるのは外鍵。

#三月ユリシーズノート
読書会で、三人が何に座っているのか問題提起。
ヘインズはハンモックから椅子へ。
マリガンは椅子。
スティーヴンは旅行カバン。
椅子は二脚。

この座り方だとスティーヴンが居候っぽく見えるが…。
この後の「家賃は誰が払ったのか」問題に。

#三月ユリシーズノート
p.26

マリガン「溶けちまいそうだぜ、(…)蝋燭の言い分があったじゃないか…。おっと、しーッ! その話はもうやめ!」

蝋燭のように溶けそうだ、が何かの不謹慎なジョーク? イカロスの翼が蝋燭のように溶ける? 亡霊蝋燭の流れ?

#三月ユリシーズノート
p.27

グロウガン婆ちゃん(誰?)の tea/water の軽口から「in the one pot」を「お茶筒とお尿筒(しとづつ)」として延々とお茶とオシッコを混ぜ合わせる。

第4挿話の tea pot と chamberpot に響いている。

「五行の本文に十頁の注釈をつける」
…それくらいやれと(汗)

#三月ユリシーズノート
p.28

グロウガン婆ちゃん、マリガン(アイルランド)の小唄にのせて、

メアリー・アンの婆ちゃんは
人目なんぞはくそくらえ
ペチコートをば捲り上げ…

と、『肖像』の鳥女を揶揄している。

このあたり、マリガンはずっとスティーヴンの『肖像』に否定的な言及。

#三月ユリシーズノート
p.28-30

包皮の取立屋(割礼)の神の名を唱えながら、ミルク売りの婆さん登場。

根本的にこの婆さんの立ち位置が分からないので、周辺的なことを列記してお茶とお尿を濁します。

#三月ユリシーズノート
第1挿話との関係
●ブルームのユダヤ的妄想に登場する老婆
●「ミルク罐の輪に二の腕を通して」=「ティーポットの把手に親指をかけて」
●「とろっとしたミルクを注ぐ」=「どろりとしたクリーム」
●「おれたちの国は(…)馬糞と肺病病みの痰ばかし」=ブルームの裏庭の糞話

#三月ユリシーズノート
アイルランドの象徴としての老婆

「牝牛中の絹、かつまた貧しき老婆」はどちらもイギリス圧制に苦しむアイルランドの象徴だそうで。

#三月ユリシーズノート
スティーヴンのこの独白

「老いてひっそりと、朝の世から入ってきた、もしや遣わされた使者か。(…)牝牛中の絹、かつまた貧しき老婆、ともに昔の名だ。(…)征服者と浮かれた裏切り者の双方に仕える仙女(…)仕えに来たのか責めに来たのか、どっちなのかはわからない」

#三月ユリシーズノート
ヘインズをイギリス、マリガンを浮かれた裏切り者に見立て、その両方にミルクを注ぐ「仕えに来たのか責めに来たのか」わからない存在だと言ってるらしいが…。

その流れで、スティーヴンは「おれをこの女は軽んずる」と思うのもよくわからん。そこまで卑屈にならんでも…。

#三月ユリシーズノート
ヘインズの「いまこの女を黙らせる大きな声」(ゲール語)を老婆がフランス語と間違う場面から、読書会では、ゲール語がアイルランドからあっという間に消えていく地図が紹介され、けっこうな衝撃。

#三月ユリシーズノート
で、恒例の金勘定。

老婆がミルクの値段を正確に計算する原文。

That's a shilling and one and two is two and two, sir.

読書会では、頭の回転よりも身体で覚えた計算ではないかという指摘。

そういう読みを排除する、単位を補足しすぎる鼎訳より柳瀬訳がいいと思う。

#三月ユリシーズノート
#三月ユリシーズノート
U.1 p.31

マリガンが引用する詩は件のアルジー(スウィンバーン)の『The Oblation』(献身)。

これについては下記の小林さん論文参照w

ジョイスへの扉―『若き日の芸術家の肖像』を開く十二の鍵   高橋渡・河原真也・田多良俊樹 編著 amazon.co.jp/dp/4269721502/…
ミルク婆ちゃんへのお代を払ってスッカラカンになって、ニペンスを借りにしているマリガンとスティーヴンだが、第1挿話の最後に印象的なやり方で、スティーヴンがニペンスを持っていることがわかる。せこい。

#三月ユリシーズノート
マリガン、パンの両側にバターをこってり塗るというのは、がっついているという表現でよい? 食いづらいだろうに。

p.32

「戴冠式(給料日)」→「今日は詩人一同、酒宴を張らねばならない日」→「月一の浸り日」→『海酔浴』→「アイルランド全土が湾流に洗われてるよ」

#三月ユリシーズノート
これは wash (洗濯)から、心の洗濯(飲酒)という連想で、アイルランド全土が酒浸りになるという冗談。

「独知の噬臍。良心。まだここに染みが」と、ヘインズを「良心の呵責を感じているイギリス人」と評しているのは、マリガン? スティーヴン? 視点人物が曖昧になる。

#三月ユリシーズノート
p.33

「あたいからもよ、キンチ」とマリガンを女言葉に訳すのは、手をスティーヴンの腕にのせるという仕草からか? 意味は「おれも金は出せない」ということか。

それ以外、p.33が「読めてしまう」のは、きっと見落としがあるから。

#三月ユリシーズノート
p.34

以下はスティーヴンがマリガンの口寄せをしているが、『』の中は誰のことか? 柳瀬訳ではマリガンが自分を評しているが、鼎訳ではスティーヴンの自己評価。

#三月ユリシーズノート
#三月ユリシーズノート

ノートの写真を忘れてました。

U.1 pp.31-36
And putting on (…)while he called for a clean handkerchief.『God, we'll simply have to dress the character. I want puce gloves and green boots. Contradiction. Do I contradict myself? Very well then, I contradict myself. Mercurial Malachi.』

#三月ユリシーズノート
ありゃ? ガブラー版には、Godの前に「独知の噬臍」がないな…。

ともかく、仕切りに服装がちぐはぐだと気にしているのがスティーヴンなら喪服との関連で納得はいくが、マリガンならなにをちぐはぐだと言ってるのか。まあ、性格はちぐはぐですが。

#三月ユリシーズノート
マリガンの外へ出るときの大仰さ「いざ敷居を跨イ(マタイ)でおん出んとすルカ」は、「And going forth he met Butterly.」がマタイ伝のもじりだから?

いよいよマーテロウ塔の外へ。

マリガン「こらお座りだ! わんきゃんうるさいぞ!」は本当に犬がいるのか?

#三月ユリシーズノート
鍵を持って出たスティーヴン。家賃は12ポンド。スティーヴンの給料は4ポンド。払えるのか?問題。

p.36

スティーヴンのハムレット編。前振り。

自分の「くすんだ喪服姿」を第三者の目から見るスティーヴン。

#三月ユリシーズノート
Missing some Tweet in this thread?
You can try to force a refresh.

Like this thread? Get email updates or save it to PDF!

Subscribe to 三月うさぎ(兄)
Profile picture

Get real-time email alerts when new unrolls are available from this author!

This content may be removed anytime!

Twitter may remove this content at anytime, convert it as a PDF, save and print for later use!

Try unrolling a thread yourself!

how to unroll video

1) Follow Thread Reader App on Twitter so you can easily mention us!

2) Go to a Twitter thread (series of Tweets by the same owner) and mention us with a keyword "unroll" @threadreaderapp unroll

You can practice here first or read more on our help page!

Follow Us on Twitter!

Did Thread Reader help you today?

Support us! We are indie developers!


This site is made by just three indie developers on a laptop doing marketing, support and development! Read more about the story.

Become a Premium Member ($3.00/month or $30.00/year) and get exclusive features!

Become Premium

Too expensive? Make a small donation by buying us coffee ($5) or help with server cost ($10)

Donate via Paypal Become our Patreon

Thank you for your support!