p.37-38
「船は何艘」問題。
郵便船は「明るい地平線にもやもやっと揺曳する the mailboat の影」と「マグリン小島を間切っていく a sail がひとつ」なので 2艘であろうか。
p.21 の「磯近くと沖合で海面の鏡が軽やかな靴をはいて駆ける足に踏んづけられて白くなる。翳りの海の白き胸。絡み合う教勢、ニ音ずつ。手が竪琴を掻き鳴らし、絡み合う和音を掻き混ぜる。波白の結ばれた言葉が翳りの潮にゆらめき光る」
これは、2艘の郵便船と帆影の光景では?
マリガン、アラレちゃんのように「翼みたいな両手をぱたぱたやりながら」「メルクリウスの帽子をふるわせる疾風に乗って」キーンと走り回りながら、電気グルーヴ並みの「おどけイエスの小唄」を披露。
これは英語としてわからないのだけど、
●「おふくろユダヤでおやじは鳥よ」→マリアを孕ませたのは鳩(かつ鳥でデッダラスを暗示?)
●「出してやろうぜ尿袋(ゆばりぶくろ)の搾りたてをな」→こんどはワインと尿を執拗に混ぜ合わせている。
●「オリーブ山は風強し」→柳瀬訳「breezy」はそよ風ではない?
p.39
ヘインズに「きみは信者じゃないわけ? つまり狭い意味での信仰ってことだけど」と訊かれ、スティーヴン「信仰には一つの意味しかないね」と答え、ヘインズ「信じるか信じないか、二つに一つだよね」と独り合点しているが。
この後、ヘインズの「ペルソナとしての神(…)きみだってあれは擁護しないだろう?」に、スティーヴンは「You behold in me, Stephen said with grim displeasure, a horrible example of free thought.」と答えたのだが…。
鼎訳「このぼくは、とスティーヴンはむっとした顔で言った。自由思想の忌まわしい見本だってわけか」
柳瀬訳「きみの目の前にいるのは、とスティーヴンはむっと不機嫌になって言った。自由思想のおぞましい実例だよ」
鼎訳は、ヘインズがスティーヴンを「忌まわしい自由思想家」だと評価していることに対して不快を示している。
柳瀬訳は、スティーヴンが自分を(ヘインズのいう)「自由思想家」だと認め、自由思想を「おぞましい」と評価している。
真逆なのだが、柳瀬訳では、ヘインズのカトリック(を棄教すること)に対する脳天気さに、スティーヴンは「むっと不機嫌に」なっているのか。
この後の三位一体に対する執拗な攻撃(信仰には一つの意味しかない)との相関。
トネリコのステッキは詩人の象徴(於・読書会)。
そのステッキが「スティィィィィィィィィィィィヴン」と追いかけながら詩としての折れ線を書き、マリガンとヘインズが踏みつけながら帰ってくるだろうとスティーヴンは想像する。
家賃は誰が?
柳「あいつは鍵をほしがっている。おれの鍵だ。おれが借り賃を払った。今はあいつの塩辛いパンを食らう身。鍵もくれてやれ」
鼎「あいつはあの鍵がほしいんだ。鍵はこっちのものだよ。家賃を払ったんだからな。今は塩からいパンを食う身か。鍵もやっちまえ」
鼎訳の脚註、解釈は二つ。スティーヴンは12ポンドの家賃を払えないとし『鍵はこっちのものだよ。家賃を払ったんだからな』でスティーヴンにマリガンのアテレコをさせてるのが鼎訳。「簒奪者め」でマーテロウ塔を奪われると読みたいのが全てスティーヴン自分語りとする柳瀬訳。
p.40
「--つまりさ、とヘインズが…
スティーヴンは振り向き(…)見て取った。
--つまりさ、きみは(…)」
というくだり、ヘインズの直接話法に登場人物のスティーヴンの視点が割り込んで来る。
スティーヴン、アイルランドにとっての主人を三位一体に喩え、イギリスとイタリア(カトリック)と「三人目」はマリガン。
さらに、ヘインズ、イギリス人の脳天気なアイルランド併合に対する「歴史に罪があるようだね」発言。(どこぞの国の話のようだ)
スティーヴン、怒りの三位一体異端蘊蓄攻撃。この怒りはカトリック棄教者としてのスティーヴンが自分のおぞましさを吐き出していると読めば、先ほどの「自由思想のおぞましい実例だよ」と自己評価しているという解釈が正しいのではないか。
ちなみに、異端者たちの詳細な解説は、yoshino maiさん(@yoshino314)のこちらのブログをどうぞ!(手抜きw)
晴耕雨ジョイス—『ユリシーズ』読書会第二回のメモ
cafedenowhere.hatenablog.com/entry/2019/09/…
U.1 10/10
p.41
第1挿話最大の不明箇所。
「二人の男が崖の縁に立って眺める。実業家、船方」
柳瀬さんが、ヘインズ=実業家(businessman)、スティーヴン=船方(boatman)と決めうちして、第3挿話の「仁助」=船方=スティーヴンと「種明かし」したのは読んだのですが…。
そして、溺死体。実業家と船方が話しているのは9日間見つかっていない溺死体のことか。p.93(第3挿話)で浮かんでくる。
p.42
「一人の若者が(…)水の中で(…)足を動かす」
先に海に入っている若者がいるのだが、誰であろうか?
ここでこの若者との会話で、マリガンの弟からウェストミーズのバノンとやらにかわいいフォトガールができたと聞く。(p.118までいかないとなんのことかわからない) もちろんミリー。
「速射でばっちりか?(Snapshot, er?)短時間露出だな」
…マリガン、じじくさいよ…。
と思ったら、まだ海に入っていた男がいた。
「てかてか頭と白髪の花冠」つまりトンスラ。カトリック聖職者。
さんざん涜神的な戯れ言を吐いたマリガンも「親指の爪で額と唇と胸骨を指して十字を切った。」
これで形として十字になるのかちょっと解せないけど。
p.43
「赤毛の女はまぐわひ狂いなり」
鼎訳「赤毛の女は山羊みたいに跳ねるってな」
これじゃこの直後、Buck マリガンが「ぎくりとしたそぶりでふっと口をつぐ」む理由がわからない。「Redheaded woman buck like goats」と自分の渾名が紛れ込んでいればぎくりともしますわ。
p.44
スティーヴン、鍵と2ペンスをマリガンに渡す。
はい、ここ私のこだわり場面。
「スティーヴンはふわっとした山の上へペニー貨を二枚放った。着衣。脱衣。」
「Stephen threw two pennies on the soft heap. Dressing, undressing.」
「ふわっとした山」とは、マリガンが脱いだ衣服の山。そこに向かってペニー貨を二枚投げる表現が「Dressing, undressing」なのは、一枚目が服の山に潜り込み(Dressing)、二枚目はいったん潜った後に飛び出してきた(undressing)ということだと思う。
鼎訳の「服を着る、服をぬぐ」を、「着衣。脱衣。」としたのはその意味でリズムを合わせて訳したのか。
「バック・マリガンが直立し、両手を前で組み合わせ」は、two pennies から electさせてるわけなので至極ふつうの性的ほのめかし。
ツァラトゥストラは省略w
臨終の祈りの文句。
読書会ではふれる時間がなかったようですが、この予定資料の最終スライドに!
そうか! 時間的にはまさに、ブルームがジョージ教会の弔鐘を聴いていたときか!
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