STORY
【───おや。】
街の片隅で見た、古ぼけた看板。
その奥にある、空間。
踏み入れた瞬間に、白い紙が舞って文字が現れた。
『ヨウコソ御客様』
『テケ付ヲ気二罠───』
文字がある紙が出たのは皆、魔術書のようだったが…。
1.
黒いハードカバーのその本は、一見すると本文がないもののようだった。だが、どうだろう。あたりが夜になり月光が降り注ぐに連れ文字が浮かび上がってくる…
その魔法の内容は次のようなものであった。▽
あるとき、ローブの男から黒い羽を手渡されてから───周りは娘に依存し始めた。
『…満足だろう?皆お前しか見えなくなっちまったぜ?…勿論、この俺様もな』
鋭い目で暗く嗤う男は誰か。
【一筋の光に飢える魔法】
2.
ややモダンな本を見つけた。白黒写真入りのようで、家族写真と思われる物が載っているが、不可解なことに、名前に当たる部分が乱暴に塗りつぶされている。
『…私的な本も、時に魔力を持つんだ。写真があるのはその為さ。それは悪縁切りの力がある』
微笑む店主の横に別の影があった…▽
幼さの残る青年が、舌打ち混じりに吐きすてる。
『…俺の縁は皆悪縁なんかいな。…母さん』
本の中の写真に、彼に似た顔を見た。
【絆を捨てる魔法】
3.
古びた筆とともに売られている魔法書を見つけた。後から書き足せるタイプのもので、表紙には2羽の鳥が描かれている。雌雄だろうと直感した。
最終ページの内側に、【この地で番分つ事なかれ…さすれば双念泉を成す】と訳せる文が書かれたメモがあった。
年代の記載があったので調べると…▽
或る青年がそれを見つけた後、隠した犯人は姿を消した。双子の姉を残して。
『対のものは大事だと、あの子に教えただけだぜ…』
彼は嘲笑ったという。
欲と対価も対だと、そこで気づいた。
【片割れ探しの魔法】
4.
ルビーをばらまいたような装飾のある魔術書を見つけた。見たことのない文字が書かれていて、内容が読み取れない。
だが…ひとつだけ分かる単語があった。
───エリニュス・デュー。
復讐を司る神の名を持つその雫を盃に満たし、微笑むのは紅毛の男。
続く解説文にはこうあった…▽
対象者が最も憎む姿になり、復讐心を煽る。女相手ならば彼は一層狡猾だろう。
『狂った姿は美しい…咲き乱れろ』と嗤うのだ…"
哀れな花に口付け散らす、その男の名は読めなかったが、類似事象を行う女の名はALICEとあった…
【憎悪の背中を押す魔法】
5.
白い装丁の本を複数見つけた。古い時代のものだが加筆の跡がある。…医学生の日記のようだ。
『AをAと判断しうるのは記憶である。』
そんな一文があった。進んだ技術を扱っていたようで、同じような事例が複数人の医者により行われたらしい。Rという頭文字が多いため、この者が主体らしい…▽
「…俺は灰になればええ。Rが…」
最後のAの記述は投げやりだった。
…語調の違うRの筆跡と同じに見えるのは何故だ?
【記憶を解き撚る魔法】
6.
薄い文字で書かれた本を見つけた。
触れた所からはらはらと文字が消えていくが、消える前に書かれていたものは皆【欲望】に関する記述ばかりだった。
『…続きが読みたい』
ふと、こんなことを呟いてしまった時、とうとう全ての文字が消え失せてしまい、ガチャリと鍵がかかる音がした…▽
"その男は欲望を嫌っていた。
『悪しき欲の鼓動を乱せ!』
いつも声高に叫んでは傲慢なものを諌めていく。彼が裁いた者たちは、もれなく果てを見た"
『上を見過ぎたら堕ちるぜ…』
氷のような囁きが聞こえた。
【無欲を産む魔法】